第七話
ニコニコと優しそうな左大臣だが、その政治家としての手腕はずば抜けていた。
政敵を押しのけ、有力者と縁故を結び、今のところ、もはや敵なしといった具合である。
そんな左大臣にも、どうしようもないのが皇子のことである。
藤壺の女御は今上帝の寵愛を一身に集めてときめいているものの、二人の姫宮がいるのみであった。
そんな具合であったから、東宮にも娘をやって、なんとかして世継ぎの君を設けたい。
そう考えるのも無理からぬこと。
むしろ、他の家の娘が皇子を産むのを指をくわえて見ているような愚鈍では、政治家として、一家の主として心許ないというものである。
今回の三の君の駆け落ち騒ぎを利用して、式部卿宮を懐に取り込んでしまうところなど、本当にちゃっかりものである。
「敵には回したくない御仁ですこと」
中将の御方が、そうつぶやくのも無理はない。
中将の御方とて、自分の亡き夫の兄、左大臣の庇護のもと暮らしている身。
左大臣の栄枯盛衰は自分や娘にも響いてくる。
そう思えば、今回の突拍子もない提案にも逆らえるはずもなかった。
娘が入内などと、普通の親ならば夢膨らむばかりであろうが、恋に恋してすらいない娘の様子を見ていると、これから先どうなることかと中将の御方の不安は膨らむばかりであった。
それでも、女房たちに指示をだし、テキパキと入内の準備を進めていく。
左大臣家三の姫の東宮入内の日程は、もう一月後にまで迫っていた。