第六十二話
左大臣に呼ばれた二の君は、寝殿の芙蓉の部屋までやってきた。
その表情からは、感情は読み取れない。
「二の君は、誰と結婚したいのだ?」
あんなに右往左往してたくせに、やたらと単刀直入な左大臣に、まわりの女性たちは目を見開く。
「どなたでもよろしゅうございますわ」
それに対する二の君の答えも、なかなか驚くものだった。
「誰でもいいって・・・」
横にいた芙蓉も三の君も、なんて言えばいいのかわからない。
左大臣も、困った顔をする。
「誰でもいいということはなかろう。
何か、一つくらい条件があるだろう?」
左大臣が食い下がる。
「あえて申し上げるなら、私だけを妻にしてくださる方でございますわね」
表情も変えずそう言ってのける二の君に、左大臣を除く全員がくすくすと笑い出した。
「じゃあ、左大臣さまとは正反対のタイプということですわね」
そう言われて左大臣は何もいえない。
「私だって、愛したのは北の方だけ・・・」
言い訳がましくぼそぼそつぶやく左大臣の声は、完全に無視されている。
「二の君さまの気持ちも、わかりますわ」
中将の御方にまでそう言われてしまう。
左大臣は、しょぼんとしてしまう。
左大臣は、愛する亡き北の方によく似たこの義妹が大好きなのだ。
自分の後添えにするなら中将の御方しかいないと思う。
愛しているのは亡き北の方だけれど。
自分の娘たちをどれだけ中将の御方が慈しんで育ててくれたかを考えると、大事にせずにはいられない。
一番愛しい女の妹、そして可愛がっていた亡き弟の北の方である中将の御方に無理強いすることも出来ない。
左大臣は、はっとした。
これでは結局、二の君に聞いても相手が決まらない。
しかし、そんな悩みも吹き飛ぶくらいに、自分の愛している女性たちが集まっている姿は左大臣を喜ばせる。
相変わらず二の君の対応はそっけないが。
芙蓉のおなかもだいぶ大きくなってきている。
産み月も近い。