第六十一話
あまりにも左大臣が、うじうじと情けないのでしびれをきらした中将の御方は、ため息をついて廂に控えていた女房に二の君を呼んでくるように言いつける。
「私たちもいれば、二の君とお話できるでしょう?」
そうため息をつきながら言う中将に、左大臣の顔がぱあーっと明るくなる。
「いやあ、やっぱり中将の御方は頼りになる。
そういえば、こないだの話、考えてくれたかね?」
にこにこしながら言う左大臣。
さっきからだまって見ていた芙蓉がたまらず質問する。
「お話って?」
「女御さまからも、母君に口添えしておくれ。
私の北の方になってもらいたいと、ずーっと頼んでいるのに首を縦にふってくれないのだよ」
芙蓉は、目を丸くする。
言われてみれば、確かに中将の御方はまだ30をちょっと過ぎたくらい。
まだまだ美しい。
「母さま、左大臣さまとそんな関係だったの・・・」
思わずつぶやく芙蓉に中将は目をむく。
「もう!そんなわけありません!」
三の君は、横でにやにやしている。
「芙蓉ったら、今まで気づかなかったの?
昔っから、ずうっと父さまは中将の御方に文を贈ったり贈り物をしたり、遊び歩くわりに中将の御方一筋なんだから」
芙蓉は、驚きすぎて口までぽかんと開いてしまう。
確かに、母さまの言葉にはめっぽう弱いとは思っていたけど・・・。
自分の鈍感さに、さすがの芙蓉もびっくりである。
中将の御方のほうを見ると、心持ち顔が赤いような・・・。
二の君の結婚より、左大臣の恋の行方のほうが気になってきた。