第五十九話
式部卿宮と宰相中将が、御簾の前に腰を下ろして話し込んでいるのを見て、他の公達たちも自然と集まってくる。
二の君は、左大臣家唯一の未婚の姫君。
たとえ二人の女御とは母親よりも低い身分の母親だとしても、左大臣の婿になりたいものは多い。
なんてったって、あの式部卿宮の北の方が左大臣の養女になっているから、一応式部卿宮の義兄弟になれてしまうのだ。
そんなチャンス、逃したくない。
わらわら集まってくる公達たちは、本当にいろいろである。
みな、左大臣邸の宴に招かれるくらいだから、それなりに身分は高いのだろうが、宰相中将のような美男子から馬みたいな男、二の君よりもだいぶ年上と思われるもの。
二の君付きの女房が、何人か話の取次ぎをしている。
もちろん東宮お気に入りの桐壺の女御さまのご機嫌伺いに来るものも多いのだが、二の君の前に陣取るものたちとは目的が違う。
まあ、どちらも目が欲でギラギラしているように見えてしまうのは、共通しているかもしれない。
芙蓉としては、特に興味はわかない。
桐壺の女御を賞賛する美辞麗句をとうとうと並べられて、扇の陰であくびをかみ殺す。
中将が女房たちを取り仕切って、相手をさせている。
蜜に群がる蟻のような公達たちに、左大臣が近づいてきた。
「これはこれは、月より女性のほうが美しいといったところですかな?」
すっとぼけた顔をしながら近づいてくる左大臣だが、その目は抜け目なく二の君に近づいている公達たちを吟味していた。
まあ、これから公達たちからの文がたくさんやってくるだろうから、吟味するに越したことはない。
左大臣家にとって誰を婿にするのが得策か、あとで式部卿宮にも相談してみよう。
左大臣の目は温厚そうな表情とは裏腹に、鋭く光っていた。




