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第五十七話

二の君が、女房に先導されてやってきた。


久々に会う二の君は、幼いころに一度会ったきりであるので、特に印象はなかった。


確かに藤壺の女御や三の君とは、まったく違うタイプである。


二人が明るく華やかであるのに対して、どちらかというと物静かなひとに見える。


きれいに手入れされた黒髪は、さすが姫君といった感じである。


「女御さまにおかれましては、このたびの御入内、おめでとうございます。


また、ご懐妊も重ね重ねおめでとうございます。


健やかな宮さまのご誕生を心からお祈り申し上げます」


手をついて挨拶をしている二の君は、特に何かの感情を持っているようには見えない。


「また、このたびは宴にお招きいただきまして、ありがとうございます」


それを聞いて、女房に教えられた台詞を棒読みしているのかしらと芙蓉の脇に控えていた中将は苦笑する。


「わざわざのご挨拶、ありがとうございます」


姉妹としては初めて会う二人の対面に、芙蓉はなんと返せばいいのか苦心する。


芙蓉と三の君が入れ替わっていることは、ほんの少しの人間しか知らないトップシークレット。


二の君は知らない。


まあ、三の君にも会ったことはないのだから、入れ替わっていても入れ替わっていなくても二の君にとっては特に関係ないことかもしれない。


妹であるとはいえ、芙蓉は女御だからということもあって上座に座っている。


それもなんだか居心地が悪い。


実は人見知りな芙蓉は、とりたてて何かをしゃべるわけでもない二の君になんて話しかければいいのか言葉がみつからない。


中将が、しきりに目配せをしてくる。


私から何か話せということよね・・・


芙蓉は、必死で話題を探す。


「えっと・・・宴はお好きでいらっしゃいますの?」


「私、宴に出たことはございませんから、好きかどうかはわかりかねます」


二の君のそっけない答えに、芙蓉は固まってしまう。


「普段は、どのようなことをしてお過ごしでいらっしゃいますの?」


「普段は、物語を読んだり、手習いをしたり、縫い物をしておりますわ」


「まあ、物語がお好きですの?


どのような物語がお好きですか?」


芙蓉は、やっと話の糸口を見つけたと思って嬉しそうに尋ねる。


「別に物語が好きなわけではありません。


他にすることもありませんから」


二の君は、そっけなく答える。


「では、縫い物がお好きですの?」


芙蓉が食い下がる。


「別に好きではありません」


二の君は、しれっと答える。


芙蓉は困ってしまった。


脇にいる中将のほうをちらっと見る。


さすがの中将も、どうしたらいいのか考えあぐねているようである。


「いろいろお忙しいでしょうから、またゆっくりお話いたしましょうね」


芙蓉は、どうしようもなくなって、自ら二の君との会話に幕を引いてしまった。


二の君は、表情を変えることなく、自分の東北の対へと下がっていく。


芙蓉は、それを確かめるとふうーっと長い長いため息をついた。


「中将〜、私、何か悪いことしたかしら?」


泣きそうな顔で尋ねる。


「いえ・・・、何か思うところがおありなのかもしれませんわね」


さっさと話を切り上げるなんて二の君に失礼ではあるものの、中将は、そうしてしまった芙蓉を咎める気にはなれない。


「私、嫌われているのかな〜」


ふにゅっと泣きそうな顔になっている芙蓉を見て、中将は慰めることしか出来なかった。

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