第五十二話
桐壺の女御の里下がりの行列は、いくつもの牛車を並べて都大路をゆっくりと進んでいく。
その行列は華やかで、道行く人々が思わず息を止めるように行列に魅入っている。
車から出ている美しい衣が、女御や女房たちの美しさを想像させる。
芙蓉は、その中でも一際壮麗な車に乗り、その姿は幾重にも隠されている。
御所から左大臣邸までは、ほんのわずかな距離である。
女御の里下がりだからということで、左大臣邸では寝殿に芙蓉の部屋が用意されていた。
寝殿に横付けされた牛車から降りた芙蓉を、三の君が出迎える。
三の君に会って芙蓉は、初めて左大臣邸に戻ってこれて嬉しいと感じることが出来た。
三の君に手をとられて部屋に入っていった芙蓉は、美しく飾り付けられた部屋に驚く。
「左大臣さまが、女御さまの里下がりだからということで、部屋の調度をすべて新しくされたのよ。
私は、久々に女御さまにお会い出来るからと思って、姫と二人で左大臣邸にやってきたの。
後宮にいらっしゃったら、なかなかお会いすることも出来ないでしょう?
姫の顔を見ていただくのも、普段は難しいから」
久々に会えて嬉しいと微笑む三の君の姿は、左大臣邸で毎日一緒に暮らしていたときと少しも変わっていない。
姫君を産んだからなのか、ほんの少しふっくらとした三の君は式部卿宮の北の方らしく威厳すら出てきたようである。
「お幸せそうで良かった」
芙蓉は、幸せそうな三の君を見て、心の底からそう思った。
自分が幸せだからこそ、人にも幸せになってもらいたいのである。
一度座ると、久々に会う二人の話は止まりそうにない。
お互いのことを、飽きもせず話し続けている。
そこへ三の君の娘である小姫が乳母に抱かれてやってきた。
しろい衣に包まれた小さな赤ちゃんに、芙蓉は思わず歓声を上げる。
乳母から小姫を受け取った三の君は、慣れた手つきでむずがる小姫をあやす。
興味津々で見つめる芙蓉に、三の君は抱いてみる?と聞いた。
おそるおそる手を伸ばした芙蓉は、小姫を抱いてみた。
その手つきは、なんだか危なっかしい。
小さな小姫は小さな手や足をもぞもぞと動かす。
「かわいい〜」
芙蓉は、小姫を抱いてあやす。
「私のお腹の御子も、小姫みたいに元気に生まれてくるといいなあ・・・」
芙蓉は、自分のお腹の御子に思いをはせる。