第五話
「三の君さま。その説明では誰もわかりませんわ」
呆れかえった声で、中将の御方が鋭く突っ込む。
「私が、説明いたしましょう。
要するに、この方は入内が嫌で、憧れの式部卿宮と駆け落ちなさったのです。
まあ、それにほいほい乗る宮も馬鹿です。
しかしすでに赤子のいる馬鹿姫を入内させるわけには参りません。
けれども、入内が決まっていた娘が駆け落ちしたでは左大臣さまの信用はがた落ち。
そこで、三の君は見つかったけど、芙蓉と三の君をこのまま入れ替えてしまおうというとんでもない考えになったわけです。
入内するのは駆け落ちなどしていない三の君という名の芙蓉。
式部卿宮の北の方になるのは芙蓉という名の三の君。
この入れ替わりは、一度入内したらもう元には戻せません」
「馬鹿姫とは何よ!」
三の君がむくれる。中将の御方はそれを軽ーくひとにらみする。
「馬鹿姫は馬鹿姫でしょう?」
「中将の御方…、もしかして怒ってる?」
三の君が恐る恐る尋ねる。
「当たり前です」
中将の御方が即座に答える。
「まったく…あなたという人は、まわりの迷惑というものを少しは考えたことがあるのですか。
みながどれほど心配するか。
そして、入内が決まった娘が失踪したなどとあっては左大臣家がどうなるのか。
もし左大臣さまが失脚などということになっていたら、藤壺さまはどうなるのか。
そして、入内せねばならない芙蓉のことも考えなさい」
さすがの三の君も小さくなって、謝るばかりである。
芙蓉はといえば、ぽかんと口をあけたまま。
すかさず、そこにも中将の御方の怒りが飛ぶ。
「芙蓉も!女御になろうという立場をわきまえて、口はとじる!」
「は、はいっ!!」
芙蓉もタジタジである。
「で、芙蓉は理解できたのかしら?」
溜め息をつきながら、中将の御方が聞く。
「あ…いちおう…」
そんなぽーっとした娘が、これから先、女御としてやっていけるのか。
中将の御方が不安になってしまうのも無理からぬことである。
「どこでどう育て方を間違えたのやら…。頭が痛いわ…」