第四十九話
「許してくださる?」
そんなことを聞いてくる牡丹宮の笑顔を見ると、芙蓉は思わず笑ってしまった。
きょとんとした顔の牡丹宮を見て、芙蓉は笑いながら答える。
「こうして、わざわざ謝りに来てくださったんですもの。
もう気にしていませんわ」
「やっぱり気にしてたのね。
本当にごめんなさい」
牡丹宮が、慌ててもう一度頭を下げる。
今度は芙蓉が慌てる。
「そんなつもりではありませんわ。
お顔をお上げになって」
率直に頭を下げる牡丹宮を見て、いい人なんだろうと思う。
そこに、東宮がやって来た。
「あ、牡丹!
女御をいじめてないだろうね?」
牡丹宮は、それを聞いてぷんっとふくれる。
「いじめてなんかないわ!ね?」
そう言って、芙蓉のほうをちらっと見る。
「牡丹宮さまと私、お友達になれそう」
そう言って、微笑む芙蓉を見て、東宮は嬉しそうな顔をする。
「良かった〜。
二人とも好きだから、二人にも仲良くなって欲しかったんだ」
そんな風に、喜ぶ東宮を見ていると、芙蓉も幸せな気分になってくるから不思議だ。
「牡丹、昨日はきつく言ってごめんね」
東宮が牡丹宮に謝っている。
東宮と牡丹宮と三人で過ごす昼下がりは、昨日とは打って変わってのどかで楽しかった。
昨日は牡丹宮がいることが、あんなに嫌だったのが不思議なくらい楽しかった。
芙蓉が桐壺を出て牡丹宮に会いに行くことは出来なかったが、牡丹宮は毎日のように桐壺にやってきた。
それは、東宮が女御と二人きりになれないと愚痴をこぼすほどだった。
「私がお伺いするのが筋ですのに、大事な体だからとおっしゃって、わざわざ来てくださいますの
私たち、お友達になりましたのよ」
嬉しそうに芙蓉が話すと、東宮はそんな芙蓉を見てため息をつく。
「仲良くなってほしいと言ったのは僕だけど、なんか女御をとられた気分だなあ」
そう言って、芙蓉を抱き寄せる。
芙蓉が、左大臣邸に里下がりする日が、もう近くまでせまっていた。