表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/117

第四十四話

牡丹宮のために開かれた宴で、初めて芙蓉は牡丹宮を見た。


芙蓉より少し年上の美しい人で、色が白く髪は黒々と長かった。


にこやかな顔が美しい。


華やかな美人。


本当に、牡丹の花のような人だった。


芙蓉は、思わず唇をかみしめる。


敵わない・・・。


そんな思いが、頭をよぎる。


東宮さまは、牡丹宮さまみたいな方がタイプなのかしら・・・。


思わず涙がこぼれそうになって、必死で止める。


扇で顔を隠して、絶対に涙が零れ落ちてしまわないように頑張る。


御簾や几帳にへだてられた向こうの方で、公達たちが酒を飲み、楽を奏で、歌を詠み、騒いでいるのが聞こえる。


そんな喧騒が嘘のように、遠い遠い世界のことのように思えてきた。


宴にやってきた東宮が、牡丹宮の側に座って、楽しそうに笑っている。


その時、牡丹宮がちらりとこちらを見た。


そして、明らかに泣きそうな芙蓉を確認してから、東宮のほうに向かって、ことさらにこやかに話しかける。


「むかつくっ」


芙蓉の頭の中は、ごちゃごちゃしてきた。


牡丹宮に負けたくない一心で、一生懸命選んだ、華やかな衣もなんとなく色あせて見えてくる。


「気分が悪いわ。下がらせていただいてもいいかしら?」


傍らの中将に、こっそりと話しかける。


中将は、黙って首を振る。


芙蓉は仕方なく、東宮のほうを見ないようにして、まっすぐに前を向く。


その表情は、涙がこぼれてこそいないものの、固まったままだ。


心なしか顔色も悪い。


それを見て、さすがの中将も心配になる。


しかし、今すぐ芙蓉を下がらせるわけにはいかない。


また、この子は、何か変な想像を膨らましているんじゃ。


そんなことが頭をよぎる。


東宮と牡丹宮とは、芙蓉が思っているような関係ではないだろう。


そう確信している中将からすれば、またか・・・とため息のひとつもつきたくなる。


東宮と牡丹宮は、ますます楽しそうに二人で話をはずませている。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ