第四十三話
芙蓉の体を気遣う東宮は、毎日のように桐壺に顔を出している。
はたから見れば、東宮が芙蓉のことを愛していることは、一目瞭然。
中将は、ほほえましい思いで二人を見つめている。
そんなある日、東宮の幼馴染でもある牡丹宮が参内してきた。
牡丹宮は、先々帝の姫宮で帝と東宮のいとこにあたる人である。
父である先々帝が、早くに亡くなったことから、宮中で育てられていた。
帝、式部卿宮、東宮などの親王、内親王と共に兄弟のように育った仲である。
先帝が退位された時、16歳になられていた牡丹宮は宮中を出て、自分の母女御の遺した屋敷に住むこととなった。
牡丹宮という名前からもわかるように、華やかで美しい方である。
牡丹宮が参内してきたということで、東宮も嬉しそうである。
芙蓉のところにやってきても、牡丹宮の話ばかりしている。
「牡丹は・・・牡丹は・・・」
際限なく続く思い出話にさすがの芙蓉もうんざりしてくる。
いくら東宮のいとこで兄弟のように育ったと言われても、牡丹宮が女であることに変わりはない。
他の女の話を自分の前でされることもうんざりだし、他の女に対するほめ言葉など、別に聞きたくない。
そんな芙蓉の気持ちに気づかない東宮は、
「芙蓉もきっと、牡丹のことが好きになるよ!」
と、口笛でも吹きそうな感じである。
「牡丹宮なんて大嫌い」
東宮が帰ったあと、芙蓉は声に出してみる。
「大嫌いーーーーー」
一応、まわりに人がいないのを確かめて、小さめの声で、でも、渾身の思いを込めて、叫ぶ。
「女御さま」
途端に、咎めるような中将の声が響く。
「な、なによぅ〜」
ちょっと弱気になる。
「相手は、内親王ですから、嫌いなど本人に言わないでくださいね。
牡丹宮さまを歓迎するための宴を開かれるとのことで、桐壺の女御もぜひお越しくださいとの使いが参りました。
きっちり、お行儀よくなさってくださいませ」
「別に、歓迎なんかしてないもん」
まだ会ったこともない牡丹宮だが、どうしても好きになれない芙蓉であった。