第三十九話
桐壺の女御懐妊の報告は、すぐに左大臣にも知らされる。
宮中にちょうど出仕していた左大臣は、喜色満面で桐壺へと駆けつける。
「いや〜、めでたいめでたい。きっと男御子に違いありませんぞ。わあーはっは」
笑いがとまらない。といった雰囲気だ。
「女御さまが健やかに過ごせるように、中将の御方もこれまで以上によろしく頼みますぞ」
中将の手をとらんばかりである。
藤壺の女御からも、早速祝いの品が届く。
どこから聞きつけたのか、他の貴族たちからも、早くも祝いの品が届き始める。
帝に報告に行っていた東宮は、そのまま桐壺にやってきて、室内に次々に積み上げられていく品々を見て、驚く。
「僕が知るより先に知っていたんじゃないかと思うようなスピードだね」
東宮があきれたようにつぶやく。
「女御は?」
そう言いながら、東宮は室内の奥にある御帳台のほうに進んで行った。
芙蓉は、表着をすっぽりとかぶって休んでいる。
東宮が、側に座っても、目を覚ます気配は見られない。
気持ちよさそうに、すやすやと眠る芙蓉を東宮は優しい目でみつめる。
小一時間も、そうしていただろうか。
芙蓉が、う〜んとけだるそうにのびをする。
「おはよう」
すぐ側に座っている東宮に気づいて、芙蓉は、はっと起き上がる。
少し眠ったからなのか、先ほどよりだいぶ具合が良さそうである。
「帝にご報告してきたよ。
めでたいと言って、たいそう喜んでくださった。
東宮の女御は、もうしばらく芙蓉一人だけにしてもらえるように、頼んできたよ」
そう言われて、芙蓉はどきっとする。
最近、そんなことで悩んでいたことがばれていたのかしら。
そんな風に思う。
「私のことでしたら、お気遣いいただかなくても・・・」
恐る恐るそう言ってみる。
「芙蓉だけのためではない。僕にとっても、女御は芙蓉一人だけがいいから、帝にお願いしてきたんだ」
そう言われて、芙蓉の顔がぱあ〜っと明るくなった。