第三十八話
東宮は、御帳台の中にいる芙蓉の枕元にやってきた。
起き上がろうとする芙蓉を制す。
それでも、芙蓉が起き上がろうとするので、東宮は芙蓉の隣にごろんと横になる。
「女御、おめでとう」
東宮は、にこにこした顔で芙蓉に話しかける。
芙蓉は、そんな東宮を、まぶしそうに見つめる。
「最近、具合が悪そうで心配していたんだけど、女御が病気じゃなくて、良かったよ」
東宮は、芙蓉の手を握り締める。
「東宮さま・・・。私も、嬉しゅうございます」
芙蓉が、弱弱しい笑みを浮かべる。
「体を大事にして、元気な子を産んでね」
久々にきちんと向き合う東宮の顔が思いのほか近くてなんだか恥ずかしい。
何も言えなくなって、こくんとうなずく。
「毎日、会いに来てもいい?」
東宮は、少し赤くなっている芙蓉の頭をなぜながらささやく。
芙蓉は、やはりうなずくことしか出来ない。
この人が東宮である以上、独占するのは無理かもしれない。
それでも、この人の一番でありたい。
そんなふうに思い始めた芙蓉だった。
東宮は、桐壺を出るとその足で清涼殿へと向かった。
そして兄帝に、桐壺の女御懐妊を報告する。
「おめでとう。桐壺の女御は、本当に懐妊しているようで良かった」
帝の言葉に、東宮は苦笑する。
「梅壺の女御のことがこたえていらっしゃるようですね」
その言葉に、帝がため息をつく。
「お前は、さっさと桐壺の女御に男皇子をたくさん産んでもらえるといいな。
そしたら、他の貴族たちも、自分の娘を後宮にいれて競わせようなどとは思わないかもしれない。
女御がたくさんいると、争いが絶えない」
東宮は、うなずく。
「私に、桐壺以外にも女御をというお話でしたが、桐壺も懐妊したことですし、他の姫君たちの入内の話はもう少し先にのばしていただけますか?」
「それがよかろう」
東宮の言葉に、帝もうなずく。
東宮は、あからさまにほっとした顔をする。
「左大臣家から男皇子が産まれてくれるのが政治的には一番である。だが、母子共に元気なら男でも女でもめでたいことだ」
そんな帝の言葉に、東宮は晴れやかに頷いた。