第三十四話
帝は内々にとおっしゃったものの、梅壺の女御の噂はまたたく間に後宮中に広まった。
基本は、梅壺の女御流産という話だったのだが、噂というのは勝手なもの。
たくさんの尾ひれがつく。
噂を聞いたそれぞれが、自分の信じたいところを信じるのだからたちが悪い。
梅壺の女御は呪詛によって流産させられただの、廊下に鑞が塗ってあったせいでこけたからだだの、実は妊娠というのは嘘だっただの色んな説が飛び交う。
一片の真実も混じっているようだが、噂が多すぎてわからない。
後宮に広まったということは、宮中いや都中にあっという間に広まっていった。
これに泡をくったのが、内大臣家に貢ぎ物を持って行っていた貴族たちである。
これでは内大臣家に取り入ろうとした意味がない。
無駄な出費をしたものだと、ぶつぶつつぶやく。
中には、内大臣家への貢ぎ物より高価なものを持って、左大臣家にやってくるものも数多い。
梅壺の女御は、父である内大臣には責められるは貴族たちにはうんざりした目で見られるは、自業自得とはいえ、かなり辛い日々を送ることとなった。
藤壺の女御は、表面的には今までどおり、穏やかな日々を送っている。
けれども実は、密かに笑いが止まらなかったり・・・。
本当に流産ならば、気の毒にも思うだろうが、何しろ狂言と言われては、あまり可哀想にも思えない。
帝は梅壺の女御と夜を過ごすことは前より少なくなったし、そのぶん藤壺の女御を召す回数が増えた。
帝をめぐるライバルを策を練って蹴落とすつもりはないが、自滅してもらえると助かる。
真相を自分の口から話すことは決してないものの、藤壺の女御はご機嫌な日々を過ごしていた。
桐壺の芙蓉の生活は、少しも変わらない。
真相は耳にしたものの、そうなのかと思う程度である。
梅壺の女御のことより、東宮や自分のことのほうが気になる。
特に、他にも東宮に入内する女御がいたら・・・と思うと、心配で仕方ない。
芙蓉は、意を決して中将に質問してみることにした。
「どうやったら、東宮さまの心を振り向かせるのかしら?」
中将はビックリである。
そんな質問が芙蓉の口から出たことも驚きだが、中将の目からみて東宮は十分芙蓉を愛している。
「なんでまたそんな質問を?」
そう聞きたくもなる。
「だって東宮さまのことが好きだから、東宮さまにも好きになってもらいたいなって・・・」
中将は、考えこんだ。
そしておもむろに口を開く。