第三十一話
桐壺に戻った芙蓉は脇息にひじをついて、考えこむ。
「権力がないと、東宮さまと一緒にはいれないの?」
権力なんて興味ないけど、東宮と一緒にいたい。そう思う。
でも、このままでは梅壺の女御の実家である内大臣家に権力が移ってしまう。
そしたら、梅壺の女御の妹君が東宮に入内してくるかもしれない。
そしたら、東宮に会う回数は半分になる。
そしたら・・・なんだか考えたくない。
芙蓉は、泣きたくなってきた。
そこに、中将がやってきた。
「かあさま〜」
芙蓉は、子供みたいに泣きじゃくる。
「女御さま、想像だけで泣く馬鹿がどこにいますか」
「へ?まだ何も言ってないけど・・・」
図星だけど。
そんな芙蓉に構わず、中将が続ける。
「そのようなことが心配なら、さっさと皇子を産めば良いでしょう。
想像に振り回されるより、実行です」
「じ、じっこうって・・・」
思わず涙も引っ込んだ。
「で、東宮さまがおこしです」
中将は、さらっという。
御簾の外から東宮が首を覗かせた。
「中将〜、早く言ってくれないと入りにくいよ。
ていうか、実行って・・・」
少し赤くなりながら、東宮が言う。
部屋に入ってきた東宮は、まだ少しうるうるした瞳の芙蓉をみて、思わずからかいたくなってしまう。
「女御は、実行したいの?」
ニヤリとしながら、聞く。
自分も、外で照れていたことなど微塵も感じさせない口調である。
「東宮さまったら」
芙蓉は顔を真っ赤に染めて、扇で隠した。
涙は、完全に引っ込んだ。
芙蓉は、深く考えるのをやめた。
ただ、この人とずっと一緒にいれるように、頑張らなければという思いだけが頭の中にあった。