第二十九話
恋を自覚してしまった芙蓉は、東宮に会うのか恥ずかしい。
今までも、抱きしめられてドキドキしたりしていたが、今では、目があうだけで心臓が飛び出そうである。
挙動不審なことこの上ない。
東宮は、初めこそそんな芙蓉を心配していたものの、しばらくすると気にする様子もない。
ただ、芙蓉のことを見守っている。
実は東宮は式部卿宮から、なぜ芙蓉が挙動不審になったのか、その理由を聞いていたのだ。
芙蓉が東宮に恋したと知った東宮は、その喜びを隠すのに苦労していた。
中将などからすれば、芙蓉をみつめる東宮の様子から、東宮も芙蓉に恋していることはバレバレなのだが、芙蓉は全然気づかない。
自分が恋していることに気づくと、次に気になってくるのが相手の気持ち。
芙蓉は、次第に東宮の気持ちが気になってしょうがない。
「東宮さまは、私のこと、どう思ってらっしゃるのかしら?」
そんなことを言っては、溜め息をついている。
二人で雷鳴壺に失踪してみたり、そもそも二人は東宮とその妃という関係なのに、今さらな話である。
そんな様子を見せられる中将は、そんな二人をあきれたような顔をしながらも、優しく見守る。
桐壺には、平和な時間が流れていた。
そんな中、梅壺の女御が懐妊したという噂が流れてきた。
藤壺の女房たちにも桐壺の女房たちにも、もちろん左大臣家にも衝撃がはしる。
宮中の貴族たちはもちろん、後宮の女房たちも、梅壺の女御懐妊の噂でもちきりである。
もし、梅壺の女御が皇子を産んだら、どうなるのか?
政治が大きく動くかもしれない。
左大臣家にごまをすっておくか。内大臣家にごまをするべきか。
たくさんの人たちの計算が始まった。