第二十六話
芙蓉は、しばらく固まったままだったが、はっとして東宮から体を離した。
どきどきした心臓は、止まりそうにない。
「もう少し、もう少しこうしてよーよ」
東宮は、芙蓉の目を見つめながら、にっこりと微笑む。
芙蓉は、くらくらしてしまう。
「みなが心配するのではございませんか?」
くらくらしながらも、こんな真面目なことを言って水を差してしまう。
「芙蓉は、こうされるの、嫌?」
「・・・嫌ではございませんけど」
思わず、そう言ってしまう。
「じゃあ、もうしばらくこうしてようよ」
そう言って、抱きしめられると、もう何も言えない。
そのまま芙蓉は、じっと東宮の温もりを感じていた。
ドキドキしていた心臓が、次第に落ち着いてくる。
代わりに、なんだかあったかい温もりが満ちてくる。
体温が伝わってきたというのとは、別の感覚。
「あったかい・・・」
思わず、そうつぶやく。
東宮は、芙蓉を抱く手にさらに力をこめた。
これは、なんていう気持ちなんだろう??
芙蓉は、東宮の腕の中で、じっと考える。
入内前、あんなにドキドキしていた心は、ドキドキしてないわけじゃないけど、ドキドキとは違う感情で満たされている。
今まで感じたことのない感情。
不思議。
でも、嫌な感情じゃない。
芙蓉は、そのまま何かを考えるのをやめた。
ただ、東宮の腕の中で身を任せる。
静かに寄り添って。
二人の世界は、時間が止まっているかのようだった。