第二十五話
「ゆ、ゆうかい?」
芙蓉は目を白黒させる。
「そ、誘拐」
「べ、別に誘拐なさらなくても、東宮さまなら私にいつでも会えますよ?」
芙蓉がきょとんとして言うと、東宮は笑い出した。
「まあ、そうなんだけどね。
でもいつもは、まわりの目がうるさいから。今は本当に二人っきりだよ?」
そう言って、芙蓉の両手を握る。
そして、芙蓉にくるんとまわれ右をさせて、後ろからぽすっと抱きしめる。
「じゃあ、このまま座ってくれる?」
と言って、芙蓉を後ろから抱きかかえるようにして、座らせる。
東宮の体温が直に伝わってくるようで、恥ずかしいような気持ちいいような。
後ろから抱きしめてくる東宮の手。
芙蓉は、自分の手をどうしたらいいのかわからない。
ただじっと、されるがままにしている。
東宮は、特に何かを話すわけでもない。
かといって、何かをするわけでもない。
ただ、芙蓉を後ろから抱きしめたまま座っている。
芙蓉は、東宮の温もりに包まれて、だんだん眠くなってきた。
「ほわ〜っ」とあくびをする。
そして、そのまま眠り込んでしまった。
どれくらい寝ていたのだろうか。
はっと芙蓉は目を覚ました。
目を見開いたまま、いったいここはどこなのか。身じろぎもせずに、ちょっと考える。
芙蓉は、東宮に膝枕をされながら、猫のように丸くなっていた。
東宮の優しい手が、髪の毛を指先ですいている。
「と、東宮さま?!」
芙蓉は、がばっと起き上がる。
「おや、起きたのかい?
膝の上にいる芙蓉も、猫みたいで可愛かったのに」
東宮は、いたずらっぽく微笑む。
「東宮さま〜、女御さま〜」
遠くのほうから、芙蓉たちを探す女房たちの声が聞こえてくる。
「っ」
返事をしようとした芙蓉の唇は、東宮の唇によってふさがれた。