第二十四話
気がつけば、東宮が芙蓉の手をとって、梅壺の外へとかけだしていた。
「と、東宮さま?!」
芙蓉は、プチパニックに陥る。
「宴を中座するわけには参りませんわ!」
真面目な芙蓉らしい。
「どうせ、兄上がいらっしゃったら兄上のことしか見てないよ。
兄上には、桐壺を助けてあげなさいって言われてたし。
それに、君がいたら話がややこしくなりそうだしね」
東宮は芙蓉の手を握って、ずんずんと進んでいく。
手を握られていることを思い出した芙蓉は、その手が意識されて仕方ない。
「どこに行きますの?」
扇で顔を隠すことも忘れてしまっている。
中将は、付いてこれていないので注意する人もいない。
「んー、どこに行こうかなあ〜」
考えながらも、東宮は芙蓉の手を離さない。
ふと、いい場所を思いついたようで、すっと方向を変える。
二人が手をつないだまま来たここは襲芳舎。
別名雷鳴壺ともいう梅壺の隣の建物である。
最近、使われていないのか、人の気配はない。
東宮が手近な扉を押すと、扉はパタンと開く。
東宮はそのまま、芙蓉の手をひいたまま中に入って内側から掛け金をかけてしまった。
部屋の中は薄暗い。
がらんとしていて、隙間からの木漏れ日だけが明かりとなっている。
「東宮さま?」
芙蓉がたまらず声をかける。
「このようなところで、何をなさるおつもりですの?」
東宮は、しぃっと言うようなそぶりで、人差し指を芙蓉の唇に当てた。
「桐壺の女御の誘拐…かな?」