第二十二話
宴が始まった。
みな、それぞれに得意な楽器を弾く。
さすがに、女御という地位にある人々なだけあって、それなりの教養はある。
芙蓉も、無難に弾きこなしていた。
梅壺の女御は、悔しそうな顔を隠さない。
桐壺の女御に恨みがあるわけではないけれども、藤壺の女御に恥をかかせるチャンスは逃したくなかった。
それが、芙蓉が無難に弾きこなすものだから、面白くない。
無難どころか、むしろ梅壺の女御より相当うまいかもしれない。
もともと、管弦の宴が開きたかったわけでもない。
単に新参者の女御をからかう場所が欲しかっただけ。
だから、管弦の宴にはすぐあきてくる。
「まあ、麗景殿さまったら、どこの衣装箱から出してこられたお衣装なのかしら?
虫食い穴があいてましてよ?」
などと嫌味をいいだす。
もともと美しい人なのに、嫌味ったらしいその顔は、眉間にしわが入っていて、お世辞にも美しいとは言えない。
「あら、麗景殿さまが、どのよな衣装をお召しになっていても、関係ないんじゃない?
どうせ、帝のお渡りもないんだから」
王女御が、火に油をそそぐ。
「あら、それを言うなら、麗景殿さまや王女御さまだって、お渡りがあったとは知りませんでしたわ」
麗景殿が、言い返す。
三人が、一斉に藤壺をにらむ。
帝ときたら、藤壺を寵愛していて、他の女御たちには見向きもしない。
藤壺はため息をつく。
「どうせ藤壺さまが、影で帝に働きかけていらっしゃるのよ」
王女御が、鼻を鳴らす。
結局、藤壺女御をいびることに決めたようである。
その矛先が芙蓉にも向いてきた。
「でも、妹君も、東宮の寵愛を受けることが出来るとは限りませんわよね。
私の妹なども東宮にお似合いの年頃ですもの。
これから、たくさんの姫たちが入内すれば、桐壺さまなど森の中の木みたいに、霞んでしまうんじゃなくて?」
梅壺の女御が、笑いながら言う。
皇子を産む。
そして国母の君となって権力を握る。
そのために生きている彼女たちにとっては、帝の寵愛を一身に受ける藤壺の女御は、目の上のたんこぶともいえる存在である。
目の上のたんこぶの妹も目障りだということなのだろう。