第十九話
中将に付き添われて梨壺に渡ると、ほの暗い寝所に通される。
柔らかな雰囲気の女性が座っていた。
「まもなく参られます」
そう言うとにこりとする。中将は、顔見知りのようで、にこやかに挨拶をしている。
芙蓉は、示されたところに座ったまま、微動だにしない。
少したって、東宮が入ってくる。
すると中将たちは、さやさやと衣擦れの音をたてながら去っていく。
芙蓉は、中将の後ろ姿を恨めしげに見つめる。
東宮は、芙蓉のすぐ側に腰を下ろした。
「…また会ったね」
芙蓉の頬を触りながら言う。
芙蓉は、やっぱり真っ赤になってしまう。
「可愛いね」
東宮は、そんな芙蓉を抱き寄せる。
「これから先、他にも女御が入ってくるかもしれないけど、女御はいつまでも、今の女御のままでいて欲しいな」
耳元でささやく。
芙蓉は、何も言えず、真っ赤な顔をしたまま、こくこくっと頷く。
心臓が飛び出してしまいそうなくらい、ドキドキしている。
二人はそのまま、朝まで一緒に過ごした。
朝になって、自分の部屋に戻った芙蓉は、真っ赤になった顔が戻らない。
というか、東宮を思い出しては赤くなり、中将の顔を見ては赤くなるので、普通の顔色に戻った時間がない。
そんな挙動不審な芙蓉を、中将は、少し困ったような微笑ましいような顔をして見ている。
そこに左大臣が、桐壺の女御のご機嫌伺いにやってきた。
中将から、東宮と芙蓉の様子など聞いて、にこにこしている。
「それほど仲むつまじいようなら、御子が生まれるのもすぐやもしれませんな」
まだ生まれてもいない皇子を思い浮かべて高笑いしてしまいそうである。
「左大臣さま、気が早すぎです」
中将が、すかさずつっこむ。
後宮の中だというのに、なんとものどかな光景である。