第十七話
言ってから、芙蓉はしまったと思った。
なんと間の抜けたことを言ったのかと思うと、また赤くなってしまう。
東宮は、くすりと笑われるし、中将はといえば、苦笑いしている。
「可愛いねえ。
本当に、中将が言っていたとおりの純真で面白い子だねえ。
後宮にはいないタイプだね」
そこで芙蓉は、はたっとからかわれていることに気付く。
腹が立つような恥ずかしいような…。
けど、言ってしまったものはどうしようもない。
「お誉めいただいて、ありがとうございます」
とりあえず、にっこり笑って言っておくことにした。
さすがに、東宮相手に怒りをぶつけるわけにはいかない。
三の姫には、ドキドキの原因は東宮に会えばわかるのではと言われたものの、いろんな感情が渦巻きすぎて、よくわからないままである。
東宮はと言えば、中将との会話を楽しみつつ、芙蓉に時々話を振っては、反応を楽しんでいる。
その度に、過剰に反応してしまう芙蓉は、なんだかだんだんぐったりとしてきてしまった。
小一時間ほど立つと、東宮はふいっと立ち上がる。
「そろそろ帰るよ。また夜にね、女御」
にっこり微笑んで、さっさと東宮は梨壺に戻っていく。
緊張の糸がぷつんと切れるかのように、芙蓉は脱力感を覚える。
夜もまた、こんなに疲れちゃうの??思わず、そんなことを思ってしまう。
入内一日目だというのにもう左大臣邸での暮らしが懐かしくなってきた。
座り込んでいる芙蓉とは対称的に、中将は再び女房たちにテキパキと指示をとばしている。
そんな中将をみて、ますます、落ち込む芙蓉だった。