第十五話
晴れ渡る空のもと、左大臣家三の姫の入内の行列は粛々と進んでいく。
牛車がゆっくりと前に進み、芙蓉は少しずつ、後宮へと近づいていく。
芙蓉は、緊張で顔をこわばらせる。
後宮に入るということ。それは、戦場に突入するということにも似ている。
藤壺の女御や左大臣といった味方がいるとはいえ、緊張を強いられる戦いが始まることには違いがない。
まわりに隙を見せないように頑張らなくては。
芙蓉は大きく息を吸い込んで、ゆっくりと吐き出した。
「頑張るしかない」
自分に言い聞かせる。
左大臣邸の中を、三の君と共に走り回っていたころが懐かしい。
二人でしたこと、習い事も勉強もすべてが懐かしい。
行列は、しずしずと後宮へと入って行った。
芙蓉は、桐壺に部屋を賜る。
桐壺から、東宮の御座所である梨壺は目と鼻の先。
そう思うと余計に緊張が高まる。
続いて、女御の宣旨が届けられる。芙蓉は、桐壺女御と呼ばれることになる。
四十人近くいる女房たちも部屋の整理や自分たちの局割りなどして、バタバタ走り回っている。
中将の御方のみが、新女御の脇に座り、女房たちに色々と指示を出している。
藤壺女御からは早速、ご挨拶にと使いの女房がやってきた。
こちらからも御礼をと使いの女房を差し上げる。
後宮の他の女御、更衣からも、使いの女房がやってくる。
初めての宮仕えのものたちが、右往左往しているのを、中将の御方が、テキパキと指示を出していく。
「中将は、ずっといてくれるの?」
芙蓉女御が聞く。
「藤壺女御さまのところには、しっかりとした古参の女房がおりますし、私が女御さまにご指南申し上げることもそれほどございません。
それよりは、危なっかしい女御さまの桐壺を、どうにかしなくてはなりませんから」
なんだか、厳しいことを言われている気がするが、それでも母が側にいてくれると思うと、女御の顔はほころぶ。
その時、女房がばたばたばたっと駆け込んできた。
「た、大変でございますっ。
東宮さまがお渡りにございます」