第十四話
こうして、芙蓉が自分の部屋でぼーっとしているうちに時間は流れ、とうとう入内の日がやってきた。
明け方近くに起こされた芙蓉は、女房たちに十二単を着せられていた。
入内という晴れの日のために、わざわざ作られたものだけあって、染めも刺繍も美しい。
すでに禁色を許された芙蓉ではあったが、中将はあえて禁色を避けて、淡い桜色の重ねを選んでいた。
その白っぽい姿が、芙蓉の髪の黒さ、芙蓉の若さや初々しさを引き立てている。
顔に軽く施された化粧で、紅をひいた唇が愛らしい。
周りの女房たちは、ほおーっと溜め息をついた。
「こんな美しい女御さまなら、きっと東宮もお気に召すに違いありませんわね」
「他の女御方との争いにだって一致団結して勝ちましょうね」
「いい夫を見つけましょう」
などと口々に勝手なことを言っている。
芙蓉はと言うと、久々に東宮に会うことを考えるとろくに口もきけない。
女房たちも、今日はこの日のために誂えた新調の揃いの衣装を着ている。
下仕えや女童にいたるまで、どことなくウキウキして華やかな雰囲気である。
出発の前にと左大臣が訪ねてきた。
「いよいよ入内じゃな。是非とも皇子を我が家にもたらしてくれよ」
わっはっはと笑う。
早々に部屋から出て行こうとした左大臣であったが、すっと立ち止まる。
「絶対に幸せになるんだぞ」
そう言うと、足早に寝殿のほうに立ち去って行った。
左大臣、意外に照れ屋なのだ。
そしてとうとう出発の刻限がやってきた。