第十三話
式部卿宮の北の方は、身重の体だからと言って、入内前の芙蓉と三日ほど一緒に過ごすと、式部卿宮邸に帰って行ってしまった。
そうすると、芙蓉はすることがなくなる。
宮中に持って行くものも、だいたい準備してあるし、そもそも姫君にはあまりやることもない。
唐衣や扇を選ぶのにも、いい加減あきてしまったし、女房たちは忙しそうに右往左往している。
女房たちだって、憧れだった花の後宮勤め。色々準備したいものだってある。
忙しそうにしているくせに、芙蓉が部屋を脱け出そうとしたら、目の前に立っていたりする。
おかげで芙蓉は、部屋に籠もりっきりで琴をひくくらいしかない。
すると今度は弾きすぎて、指を痛めてしまった。
「ひまだ〜たいくつだ〜つまんない〜」
琴も弾けなくなってしまった芙蓉は、脇息にもたれかかってあくびをするしかない。
もともと、ちょこまかと左大臣邸の中を歩き回っていた芙蓉。座ってじっとしていることが何よりも苦痛なのに。
入内前に一度と言われてされた洗髪もまたしんどい。
芙蓉の長い黒髪は、身長よりも長く、ふさふさしている。
これを乾かし終わるまで、また脇息にもたれかかってじっとする。
女房たちが油をつけながら髪を櫛で丹念にすいていく。
髪の毛が艶やかに黒羽のような光をはなつ。
けど、反対に芙蓉の心はどんより曇っていく。
「入内したら、ずっとこうなのかしら」
さすがの芙蓉も、さっさと駆け落ちして逃げ出した三の君が恨めしい。