第十ニ話
そして、入内を二週間後に控えたある日、式部卿宮の北の方がやってきた。
着帯の儀を済ませ、前より少し目立ち始めたおなかはふっくらとしている。
芙蓉は、人払いをして、東宮に会ったことを話した。
最近、溜め息ばかりついてしまうことも。東宮のことを思い出したら顔が熱くなってしまうことも。
初めは神妙な顔をして聞いていた式部卿宮の北の方だったが、途中から歪んだような顔をしだした。
そして、とうとう笑い出す。
「そんなに笑わなくったっていいじゃない」
そう一生懸命言っている芙蓉を尻目に、北の方は笑いが止まらない。
「中将の御方はなんて言っているの?」
「なんにも」
「でしょうね」
芙蓉が東宮に恋してしまったことなんか、話を聞けば誰でもすぐわかる。
それを言わないでほっとくなんて・・・なんて面白いんでしょう。
そんな考えが式部卿宮の北の方の頭をよぎる。
「ねえ、私、どうしたのかしら?病気とか?」
真剣な顔で聞いてくる芙蓉に、式部卿宮の北の方は、必死で笑いをこらえる。
そして、息も絶え絶えに
「そうね・・・そうだ、きっと、入内してもう一度東宮にお逢いすれば分かるんじゃない?」
とだけ言った。
その答えに、芙蓉は納得したわけではなかったが、そういうものなのかもしれないと思ってあきらめた。
「東宮に会えば・・・か・・・」
まだ二週間も先じゃない。そんなことを思いながら、芙蓉は大きな溜め息をついた。
芙蓉のもやもやはまだしばらく続きそうである。
式部卿宮の北の方は、まだ横で笑っている。