第百十六話
そんな時、前々々帝の母君だった太皇太后宮が亡くなられる。
亡くなられたといっても、かなりの大往生。
院にも帝にも縁の薄い方で、それほどの悲壮感はない。
太皇太后宮が亡くなられたことから、皇太后宮が太皇太后といった具合に、順繰りに繰り上がり院の中宮は、皇太后となった。
大后の宮さま。
そう呼ばれる。
そして、東宮の母であり、権力者左大臣の娘とされる芙蓉が、中宮となる。
芙蓉は、中宮としての儀式をすませたあと、大慌てで宿下がりする。
月満ちるのに少し足りないくらいに生まれたのは、姫宮であった。
小さなその体は、ふにふにとしていて、今にも壊れてしまいそう。
兄宮たちとは、また違った雰囲気で、ああ、これが女の子なのかしらなどと思う。
同じころ、なぜか出産ブームで、三の君は可愛い姫君を産む。
また頭中将と牡丹宮との間にも、姫君。
左大臣は、一度に三人もの孫に恵まれたことになる。
内親王。
帝の兄宮の姫君である女王。
内親王腹の姫君。
いずれも、この上なく高貴な人の血統に連なる子供たちである。
じいじは、目尻が下がりっぱなし。
「どの子も大人になったら、美しくなるだろうな」
と、顔を見にきてはつぶやく。
この子が一番綺麗な顔をしている。
目の前にいる子に、いつもそう言ってしまう甘々のじいじである。
中将の御方も、楽しそうである。
芙蓉の側にきては、あれやこれやと世話を焼いていく。
姫宮用の玩具や衣装が、次々に増えていく。
そんな母の姿が、芙蓉は微笑ましい。
芙蓉の生んだ姫宮は、小さいのにふさふさとした黒髪で、色白。
芙蓉は、新帝に見せる日が、待ち遠しくて仕方ない。
可愛らしい姫宮は、日々の激務で疲れている新帝の気持ちを癒やしてくれそうだ。
兄東宮や二の宮は、愛おしくてたまらなくはあるものの、将来の帝や帝の弟宮としての責任がある。
育て方も、自然と厳しくなったり、離れていることが多くなる。
けれども、姫宮ならば、手元において、可愛がってあげることが出来るかもしれない。
衣装なども、色々揃えてあげたいな。
芙蓉の心は、ワクワクと喜びでいっぱいだった。




