第百十三話
そんな中でも、中宮は端然と座っている。
傍らには、女一の宮さまと女二の宮さま。
中宮に似て、パッチリした目と黒々とした背中ほどまで伸びた髪が愛らしい。
しばらく会わなかっただけなのに、その成長に驚く。
「新東宮さまが元服されたら、院の姫宮が入内することになっているのよね」
中宮は、二人の姫宮を見る。
「私は、出来れば二人に後宮での勢力争いなんてさせたくないのだけれど。
おそらく、他にもは姫君たちが入内してくるでしょうしね」
芙蓉も、同感である。
自分は、たまたま今のところ一人だけの女御でいれている。
けれども、たくさんの女御たちの中で戦ってきた中宮は、どれほど辛かっただろう。
愛するひとを、他の女性と共有することが嬉しいと思うひとなどいない。
新東宮となる一の宮には、院の姫宮以外にも多くの姫君が入内するかもしれない。
けれども、誰を愛すかは誰にもわからない。
一の宮にだって、今の段階ではわからないだろう。
芙蓉が母親だからといって、一の宮の想いを左右することは出来ない。
「だから、女一の宮と女二の宮を一条院には連れて行かずに、御所にしばらく置いておこうと思って。
姫宮としての地位を思う存分利用して、東宮の幼なじみにしてしまおうという魂胆なの。
で、しばらくしたら、女一の宮か女二の宮のどちらか選んでもらっちゃおうと思って」
いたずらっぽく笑う中宮だが、その心中は察するにあまりある。
「この子たちが清涼殿に近い必要はないのだし、梅壺に移らせるつもりなのだけど、まだ幼いし、時々様子を見てもらってもいい?
私も、時には参内するつもりなのだけれど」
芙蓉は、力強く頷く。
幼い我が子と離れたいわけがない。
それでもこの子の先の人生を考えてのことだろう。
自分に出来ることなら、何でもしてあげたい。
そう思った。