第百十二話
翌朝から、東宮はいつもの東宮に戻った。
帝となる重圧にも負けず、頑張っている。
帝が退位され、東宮が即位されることが正式に決まる。
帝は、院となって御所を出ることになった。
新しい住処として、一条院に移られる。
中宮は、もちろん院について退出される。
新しい東宮には、大方の予想どおり東宮の一の宮が立坊する。
桐壺に住んでいた芙蓉は、もっと清涼殿に近い殿舎に移ることになる。
姉中宮の使われていた藤壺に、移ることになった。
梅壺の女御や王女御、麗景殿女御は、これから先の身の振り方について悩んでいるようである。
一条院についていっても、今さら院の寵愛を得れるとは思えない。
それならば、これから先の人生を他の男と過ごすのもありなのではないかというのだ。
そんな時、芙蓉は中宮から呼ばれた。
久々に行く藤壺までの道のりは、今までとちょっと雰囲気が異なる気がする。
みんなソワソワと落ち着かない。
自分の主の盛衰は、自分に大きく影響する。
このまま主と共に宿下がりするか。
それとも別の主のもとで、宮中暮らしを続けるか。
芙蓉に仕える女房たちのもとにも、つてを求めて、方々から打診があるらしい。
院には、中宮と三人の女御たちがいたが、新帝には芙蓉一人しかいないので、宮仕え先も少なくなっているらしい。
出来れば、お屋敷勤めよりは、より華やかな宮中に。
そんなふうに考える人は多い。
芙蓉は、そのような差配のすべてを左大臣の北の方つまり母である中将の御方にまかせっぱなし。
女房たちに囲まれるのは、仕方ない。
けれども、箸の上げ下ろしまで見守られるような生活は、正直嫌だ。
女房を、あまり増やさないでって、母さまに頼んでおかないとな。
几帳にあわせて動きながら、そんなことを考える。
思えばだいぶ女御らしくなったものだ。
几帳と共に歩くのも昔は慣れなかったし、入内した当初は藤壺に歩く道すがら、キョロキョロして叱られてばかり。
昔は、几帳なんて気にしないで左大臣邸の中を走り回っていたものなのに。
そう考えて苦笑する。
藤壺も、やはり慌ただしい空気に包まれていた。