第十一話
ところが、その日以来、芙蓉の様子がどうも変なのである。
脇息にもたれかかっては、はあーっと溜め息ばかり。
赤くなったりぼーっとしたり、要するに挙動不審なのだ。
まわりの女房たちが、どうかしたのかと尋ねても、芙蓉は首をかしげるばかり。
本人にも、自分がどうしたのかわからない様子。
不安になった女房たちは、中将の御方のところに報告に行く。
ところが、心配するかと思った中将の御方は、放っておきなさいと言ってニヤニヤするばかり。
女房たちは、不思議に思ったが、中将の御方がそう言うのに何かするわけにもいかない。
どうすればいいのかわからない女房たちは、自然と芙蓉のことを遠巻きにしはじめる。
そうなると芙蓉は、ますます自分の世界に入りこむ。
そんな芙蓉に、式部卿宮の北の方すなわち三の姫からの文が届いた。
一目見るなり、芙蓉は満面の笑み。
「式部卿宮の北の方さまが来られるそうよ」
そう言って、文を中将に渡す。中将は、文を近づけたり遠ざけたりしながら見つめる。
「三の君さま、どこにそんなことが?
これでは字というより、これは波線か、はたまたミミズが歩いたあと。
式部卿宮の北の方さまには、こちらに来られた折には、是非、私と手習いをしましょうとお伝えくださいませ」
にーっこり笑いながら言う中将だが、目は笑っていない。
「わ…わかったわ、中将の御方」
さすがの芙蓉も、しまったと思ったが後の祭り。
こうなっては、巻き込まれないように自分の身を守るほうが大事である。