第百九話
梅壺の女御と紅梅姫は、散々台風のように吹き荒れたあげく、帰っていった。
芙蓉は、思わずため息をつく。
こうやって、大変な人たちの相手をしていると、中将の御方のありがたみをひしひしと感じる。
中将の御方がいてくれたころは、困った人には中将の御方が対応してくれた。
私一人でも対応出来ると信頼してもらったから、中将の御方は去っていったのだ。
そう思うと嬉しい反面、唐突に郷愁にとらわれる。
「母さま〜」
くたーっと脇息に顔を埋める。
猛烈な寂しさが押し寄せてくる。
一の宮と二の宮も、左大臣邸に宿下がりしたまま。
中将の御方が、折に触れて成長の様子などを文にしたためてくれているものの、目の前にいないということが寂しくて仕方ない。
もうどれくらい大きくなったかしら?
そんなことを考える。
さっきまで騒がしかっただけに、しんと静まり返った室内が寂しくなる。
女房たちは控えてくれているものの、やはり中将の御方とまったく同じというわけにはいかない。
でもそうそう里に戻るわけにもいかないしなー。
芙蓉は自分のおなかに手をやる。
子供が出来れば、里下がりできるかなあ。
でも、東宮さまと離れるのも寂しい・・・
うつうつとそんなことを考える。
いつのまにか部屋の中に、闇が忍び込んできた。
女房たちが灯火に火をつけていく。
炎がゆらゆらと揺れて、影をつくる。
寂しいからって、あまり暗い顔を人前でするわけにはいかないもん。
むんっと体に力をこめる。
東宮さまも最近、忙しそうだ。
その時、ぱたぱたぱた・・・と慌てた様子の足音。
芙蓉はガバッと体を起こす。