第百八話
しばらくして、紅梅尚侍が出仕してきた。
事情を知ってる中宮ですら渋い顔。
ましてや他の帝の女御方は渋いなんてものではない。
仕える女房たちと紅梅尚侍の噂をしては、悪口を言いまくり。
紅梅尚侍のほうにまで悪口は聞こえてくる。
最も、そんなことにメゲる紅梅姫ではない。
有力な貴族の北の方になるために、全力で頑張っている。
六の宮も、女御ではないものの娘が後宮仕えを帝のお側近くで始めたことで、だいぶ満足したようである。
芙蓉からしてみると、梅壺の女御と紅梅姫という強烈キャラが二人も身近にいることに恐怖を抱いている。
二人と関わることは即ち台風の中に単身乗り込んで行くのに似ている。
出来れば一人ずつ別々に会いたい。
なのに、そんな二人が目の前にいるのだ。
目の前にいるものを信じたくなくて、芙蓉は目をつぶってみる。
恐る恐る目を開いてみても・・・
「やっぱりいる・・・」
「何かおっしゃったかしら?」
梅壺の女御がしれっと言う。
「人を物の怪みたいに扱うなんて失礼ですわ」
「聞こえてんじゃない・・・」
ツンツン怒りながらも、帰ろうとはしない。
そんな梅壺の女御を紅梅姫は、しれっと見つめる。
「なれば、お帰りになればよろしいのに」
確かにそうなんだけど、本当にそうなんだけど、それを言っちゃ、角が立つって!!
隣りにいる芙蓉のほうがあせってしまう。
梅壺の女御も紅梅姫も、芙蓉を気にする様子はない。
だからこの二人の組み合わせは嫌なのよ・・・
芙蓉は、うんざりしてくる。
そんな芙蓉を尻目に、二人はギャーギャー騒ぎ立てる。
「私、一の宮さまの妃に立候補しようかしら」
そんな紅梅姫に梅壺の女御が噛みつく。
「こんな年増の妃では、一の宮さまがお気の毒。
いったい幾つ年が離れているとお思い?」
梅壺の女御は、鼻を鳴らす。
そんな争い、二人でやってよ。
そう思うけど、自分の部屋でやられては逃げるわけにもいかない。
まあ、梅壺の女御も暇だし寂しいのだ。
帝の寵愛は中宮だけのものでもあるし、子供もいない。
そのくせ、帝の他の女御たちと仲良く出来るわけもない。
でも、だからと言って来られても、芙蓉には迷惑この上ない。