第百一話
「だから私、家出いたしましたの」
「はひっ?!」
思わず、耳を疑う。
自分も家出中だけど。
「私、それで牡丹宮さまのところに来てみたのですわ」
紅梅姫はふふっと楽しそうに笑う。
「まさか桐壺さまにお会いするとは思いませんでしたけど」
そんな言葉に、芙蓉は苦笑いするしかない。
「私、もう父のもとに帰るつもりはございませんの。
で、私を真ん中にしてくれる人を探す手助けをしていただこうと思いまして」
穏やかに微笑みながら、しれっとそんなことを言ってのける。
「宮筋の姫君って、むしろ・・・」
ものすごーくしっかりしすぎててコワい。
そんな口をついて出ようとした一言を、芙蓉は寸前で飲み込んだ。
側にいた頭中将は何も言わずうなずいている。
「って・・・牡丹宮さま、どうなさるおつもりですの?」
牡丹宮のほうを振り返る。
「どう・・・しましょう・・・」
牡丹宮にしては弱気な発言。
「牡丹宮さまのところにいらしても、殿方と会えるようには思えませんけど」
もしかしたら東宮に入内するかもしれない姫君に、芙蓉はどうしても心から優しい気持ちになれない。
「そうでございますわよね!
で、私、いい考えを思いつきましたの」
なんとなく梅壺の女御を目の前にしているような気分がしてきた・・・
そんな、ものすごく嫌な予感を覚えながら、芙蓉は話しを聞く。
「私、桐壺さまに女房としてお仕えすればよいのですわ!
宮中にいれば、殿方との出会いのチャンスも大幅増加間違いなしですもの!」
そう言って紅梅姫は、はしゃいでいるけれども、芙蓉ははしゃぐ気分ではない。
東宮と出会っちゃったらどうするんだ。
牡丹宮も、頭を抱えている。
頭中将にいたっては、いつのまにか姿を消しているではないか。
ずるいっ!
私も、消えちゃいたい!
ちょっと本気でそう思い始めている芙蓉。
紅梅姫は、嬉々として一人はしゃいでいる。