第百話
ふっくらした優しそうな女性。
宮中の女御たちのような華やかな美貌ではないが、穏やかでおっとりした感じがする。
その人は、芙蓉を見て少し驚いたようだが、すっと向き直る。
「私、先帝の弟、六の宮の娘で名を紅梅と申します」
丁寧に挨拶をされる。
「このたびは、父のせいで申し訳ございません」
深々と頭を下げられる。
「ちち?」
きょとんとする芙蓉。
「紅梅姫は、ただいま入内を進められてる宮筋の姫ご本人だよ」
頭中将が、さらっと言う。
芙蓉はその言葉に思わず、引きつった顔で紅梅姫の顔を二度視してしまう。
牡丹宮は、そんな二人を困ったように見つめている。
「はっきり申し上げます。
私、帝にも東宮にも入内したくないのです」
「まあ、なぜ?」
芙蓉はきょとん。
帝は知らないけど、東宮に入内したくないなんて信じらんない。「だって帝には中宮さまがいらっしゃるでしょ?
東宮さまだって、桐壺さまを寵愛なさってて二人も男宮がいらっしゃる。
そこに入内したって、私、決して真ん中にはいけません。
どちらの後宮に入っても、単なる添え物でしょう?
真ん中に立ちたかったら、人も殺せる鬼にも蛇にもならなくてはいけない。
なら私、帝や東宮でなくても誰かの真ん中にいたいのです。」
あぁ、そういう考え方もあるのか。
私は、東宮さまと一緒にいれるなら端っこでもいいけど。芙蓉は、そんなことを思った。
でも入内したくないって言ってるけど、紅梅姫はどうするつもりなんだろう。