第十話
どれくらい、そのままぽけ〜っとしていたのだろうか。
芙蓉は、ふと我にかえった。
「母さまの馬鹿〜」
さっきの出来事を思い出して、真っ赤になる。
「誰が馬鹿ですか。口をお慎みなさいませ」
どこからともなく、中将の御方の声がした。
「でたっ」
「でたとはなんです。
物の怪かなんかと一緒にしないでちょうだい」
中将の御方が平然と柱の影から姿を現す。
ある意味、物の怪のほうがマシかもしれない。
「なんで、そんなとこにいるの〜?」
さっきの姿を見られていたと思うと恥ずかしすぎる。
「それはもちろん、私が東宮を手引きしたからですよ」
中将の御方は、満面の笑みで答える。
「手引きって・・・」
芙蓉は耳を疑った。
ある意味、左大臣より企みまくりなんじゃないか、この人。
悪魔の尻尾とかがはえてそうだ。
なーんて芙蓉は、思わずそんなことを考えてしまう。
「手引きったって、どうせ入内を控えてるのに手引きも何もないじゃない。
宮中に上がれば、嫌でも東宮さまとは顔をあわすでしょ?」
「東宮に、どうしてもあなたに会ってみたいと頼まれましたから」
中将はしらっと言ってのける。
「何かあったら、ちゃんと止めるつもりでしたよ、もちろん。
それに、まだまだお子ちゃまのあなたがどういう反応を示すのか見るのも面白いかなーと思って。
まあ、期待どおりといったとこかしら」
芙蓉はがくっと肩を落とした。
「母さまったら、可愛い娘を売るなんて酷すぎ…」