告白
武田君に話があると言われて・・。
冬のマラソン大会で二年生が折り返し地点にする三輪山神社の麓に差しかかった時、武田君が突然足を止めた。
恵麻も自然に歩くのを止めて武田君の方を見る。
「どうかした?」
「林原、あのさ・・・あの・・。」
何か言いにくい話があるようだ。武田君にしては珍しい。もしかして・・。
「ああ、遥のことね。」
「へっ? 何で遥?」
「武田君、遥のことが好きなんでしょ。残念だけど遥は気がついてないみたい。」
「・・・俺は遥・・いや戸田のことなんて、なんとも思ってないぞっ。あいつは昔からからかいがいのある奴っていうか、それだけだ。」
え? そうだったんだ。
てっきり男の子が好きな女の子に、かまわれたくてイジワルしてしまってるんだと思ってた。
じゃあただ面白がっていじめてただけ?・・・遥も気の毒に。
「俺は林原さんのことが気になってるっていうか・・・好きなんだけどっ!」
「・・・・・・・・・・・えっ?!」
なにそれ?! どういうこと? わけわかんない。
どうしたらいいの?
恵麻は予想外の言葉を聞いて、言葉も出せずにうろたえてしまった。
「遥のことは山内が好きなんだよ。あいつは照れて何も言わないけど、男連中の間じゃ一年の時から知れ渡ってる。俺も奴を刺激するために遥に話しかけたりしてたんだ。」
「・・ふぅん。」
「俺らの学年でも、何人かつき合い始めただろ? 山内たちをまとめるためにも、俺らつき合わない?」
・・・何、それ! 武田君のその言葉で、ドキドキして真っ白になっていた恵麻の気持ちもスッと醒めた。
「別に私たちがつき合わなくてもいいと思うけど。」
「・・・。」
「山内君のことはわかった。遥の気持ちが優先だから、無理矢理には勧めないよ。でも興味を示したらそれとなくプッシュしておく。」
「待って!・・ごめん。俺の言い方が悪かった。悪いっ、謝る。」
恵麻の冷たい反応に、どこかで失言して怒らせてしまったことがわかったのだろう。
武田君はすぐに頭を下げて、言い繕った。
「山内のことは抜きにして聞いてっ。俺、春に同じクラスになった時から林原さんのことが好きなんだ。最初は見た目がいいなと思ってただけだった。でも遥と話してる様子がもろ好みだった。それに黒板ふきで端から端まで丁寧にふいて授業の準備をしてたり、クラスの箒が古くなってたらすぐに交換に行ってくれたり、そんなさり気ない気づかいが出来るとこも好きなんだ。三年になったらクラスが別れるかと思うと、ちょっと焦ってた。」
「武田君・・。」
「んで、今日初めて長いこと話をして、やっぱ俺・・・勇気を出して林原さんに
コクらなきゃって思ったんだ。」
「・・武田君。もういいよ、わかったから。」
顔から火が吹き出しそうだ。
武田君が次々に並べ立てる話を聞いていると、恥ずかしくてここにじっと立っていられない。
「お試しでもいいから、俺とつき合ってくださいっ!!」
武田君はさすがにフォワードだけある。状況判断をして、敵を交わして即座に突っ込んでいく感じだ。
「わかりました。つき合うってどうするのかわからないけど、今日友達みたいに話をして私も楽しかったの。こんな感じで良かったら・・。」
「うおーーーっ! やったー! マジ?!」
武田君は拳を突き上げて、勝利の勝鬨のようなものをあげている。
恵麻は不安になって、武田君が落ち着くのを待って一言付け加えた。
「私は武田君が遥のことを好きだと思ってたの。そういう風に武田君を見てきたから、急に気持ちが切り替わらないと思う。最初は友達からで、本当にいい?」
「うん、いいよ。恵麻の一番隣をゲットできれば。あ、俺のことは芳樹って呼んでっ!」
え、もう呼び捨てなの?
「・・・私の言った事、聞いてた?」
「俺は戸田のことも昔の癖で遥って言っちゃうことが多いし、遥も大勢いる時は武田君なんて呼ぶけど普段は『バカ芳樹』だろ? つき合ってる同士が名前を呼ばないとおかしくね?」
まぁそれはそうだけど・・・。
「じゃ、芳樹君で。」
「ヒヒッ、幸せだ~。夢みてぇ。」
恵麻はまだ不安を抱えていたけれど、子どもみたいに喜ぶ芳樹を見ていて悪い気持ちはしなかった。
まあなんとかなるでしょ。
「でも遥に話すのは恥ずかしいなぁ。何て言うだろ。」
「あいつは『恵麻ちゃん、趣味悪い。』って言うぞ、たぶん。」
芳樹が遥の口調を真似をするのがそっくりで、恵麻は声をあげて笑ってしまった。
本当に今日、芳樹と話してみてこんなに話が合うとは思っていなかった。スポーツのことや普段のクラスのことなどを緊張することなく何でも話せる。
遥たちと話しているのとはまた違った意味で楽しい。
男の子とつき合うというのも悪くないな、と恵麻は思っていた。
しかし後から、男女交際の難しさを恵麻は知ることになるのである。
つき合ってみてわかることもありますね。