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サッカー場の出会い

結局、恵麻は家族と一緒に俊也の試合を観に行くことになった。

 風を防ぐダウンジャケットをしっかり着込んで、おばあちゃんにもらったホカホカカイロをポケットの中に入れる。

家族と一緒に運動競技場に俊也の試合を観に来たのだが、サッカー場の中に座っていてもかなり強い風が吹いて来る。あまりの寒さに家族は一試合だけを観て帰って行った。


今日はサッカー場だけではなく広いグラウンドも使って、四面のコートで試合を進めていくようだ。

「恵麻ちゃん、一人だけ残ってて大丈夫?」

俊也は心配してくれたが、恵麻はこの後ここのサッカー場で行われる試合を観るために残ることにした。

「大丈夫だよ。後からバスで帰るから。トシくんたちの次の試合はまだでしょ? これからここでうちの学校の試合があるみたいだから、ついでに応援していくよ。」

「僕たちの次の試合は外の四番コートだから。場所はわかる?」

「わかるわかる。じゃ、後でそっちに行くね。頑張って。」

「任せてっ!」


この会場に来て始めて知ったのだが、ここには県南にある中学校のサッカー部がほとんど集まっていた。

もちろん恵麻の学校のサッカー部も来ていた。せっかく来たので、我が校の試合も応援して帰ることにしたのだ。


センターの辺りに座っていると、大きな声で自分を呼ぶ声がした。

「は・や・し・ば・らー! こっち来いよー!」

声の方を見てみると、ユニフォームのジャージの上に長いダウンコートを羽織っている集団がいた。

手を振っているのは武田君のようだ。


恵麻がひざ掛けやカバンを持ってその集団に近付くと、何人かのご父兄やサッカー部員が興味津々といった様子で、恵麻の方を見ていた。

「こんにちは。お邪魔します。」

「「「チワースッ!!!」」」

大勢の野太い声が一斉に挨拶をしてくれる。

恵麻はお辞儀をして、集団の隅にこっそりと座った。


「部長、彼女の側に座ったらどうすか?」

一年生なのだろうか、背の低い男の子が武田君に話しかけている。

・・・もう少し声を落とさないと、まる聞こえなんですけど。

「バカ、ちげーよ。ただのクラスメイト。」

「ふうん。それにしては情熱的な呼びかけでしたが・・。」

「うるせぇ! バカなこと言ってないで記録を取ることだけ考えてろ!」

「はぁい。」


試合の時間になると放送があり、一年生全員と二年生の何人かが顧問の先生に挨拶をして、サッカー場に降りて行った。武田君や二年生の顔見知りの何人かは椅子に座ったままだったので不思議に思っていたら、武田君に近くの席に座るように言われた。

林原(はやしばら)はサッカーのルールとか知ってるか?」

「うん、知ってる。」

「へぇ~意外だな。テニスも(はるか)と一緒にのんびりやってるみたいだから、あんまりスポーツは好きじゃないのかと思ってた。」

「兄がいるからね。今日も従兄弟の応援に来たし。」

「・・あ、そうか。うちの試合はそのついでか。」

「ごめん。ここに来てはじめてうちの学校がいることがわかった。」

「正直だなぁ。ちょっと凹む。」

武田君はそんなことを言いながらも、あまり凹んでいるようには見えなかった。むしろ口では恵麻に話しかけているけれど、目はグラウンドのサッカー部員たちの様子をじっと見ている。


恵麻は初めて男の子と友達のような会話が出来て、ちょっと嬉しかった。


「武田君達は、試合に出ないの?」

「今日の試合は、春からのレギュラー選抜の意味もあるからな。固定のレギュラー以外が出てるんだ。」

「ふうん。どこの学校も同じなんだね。」

笛が鳴って試合が始まると、武田君と一年生の男の子は専門用語を口にしながら、記録をつけ始めた。

恵麻も口を閉じて、じっくりと試合を観戦した。


一人ものすごく上手い選手がいて、その人がハットトリックをした時には、皆で大声をあげてしまった。

「くぅ~、やっぱり三浦(みうら)は上手いな。」

「部長、ポジ争いが厳しそうですね。」

「はんっ、望むところだ。」

二人の話からすると、どうやら武田君はフォワードらしい。

私としては、試合に出ている三浦君とやらと武田君のツートップを見てみたい。守りに安定感があるのならそれも面白いと思うけどな。

恵麻は二人の話を側で聞きながら、そんなことを考えていた。



 俊也の学校が次の試合で負けたので、恵麻は家に帰ることにした。

バスに乗って駅に行くと、下り線のホームにうちの学校のサッカー部員たちがいた。

「あれ、林原? また会ったな。従兄弟の試合は見れたのか?」

武田君が声をかけてくれる。

「うん、二試合目に負けちゃった。同点で延長戦になったんだけど、ギリギリで一点入れられちゃった。」

「どことやったんだ?」

「俊也の学校は大賀南(おおかみなみ)なんだけど、あたったとこは遠野(とおの)嬉野(うれしの)中。」

「うわぁ、嬉野(うれしの)とあたったのか。気の毒だな。」

「強いの?」

「あそこはたいてい県大会で優勝か準優勝するとこだ。」

へぇ~、そんな学校といい試合ができたということは、俊也たちも頑張っていたんだな。


流れのまま恵麻はサッカー部の人たちと一緒に中備(ちゅうび)の駅まで帰ってきた。

サッカー部員は駅前で点呼を取って解散をしていたので、恵麻は武田君に手だけをあげて挨拶して、家に向かって歩き始めた。

駅前通りを南に向かって曲がった時に、後ろから大きな足音がして武田君が追い付いて来た。


「林原、送るよ!」

「・・・でも武田君ちとは方向が違うよ。」

「いいって。・・ちょっと話もあるし。」

「ふうん。」

ハルちゃんのことでも聞きたいのかしら?

武田君と歩きながら話すのは楽しかった。

二人とも同じプロサッカーチームを応援してることもわかって、話に花が咲いた。


しかしまさかあんなことを言われるとは、恵麻には完全に予想外だった。

何の話なんでしょうか。

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