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初詣

お正月です。

 山から吹きおろしてくる風に、鳥居に飾られたしめ縄が揺れている。

神社に登る階段を、恵麻(えま)は姉の早紀(さき)と一緒に登っていた。後ろから家族や親戚も登って来る。


「なんかこういう所って、空気が澄んでるね。」

「パワースポットっていうこと?」

「うん、そんな感じ。今年は海外にも行くし、交通安全のお守りを買っておこうかな。」

「お姉ちゃんは、それ大事だね。私はやっぱり学業のお守りかな?」

「恵麻は来年が受験でしょ。今年は恋愛祈願にしたらぁ?」

姉の早紀にからかわれて、恵麻は冷たい目で早紀を見返した。

純兄(じゅんにい)にもお姉ちゃんにも相手がいないのに、なんで私? そういうのはそっちが先でしょ。」

「確かに、言えてる。」


恵麻(・・)絵馬(・・)を買うんだろっ!」

大声で叫びながら従兄弟の武兄(たけにい)が恵麻たちのそばを駆け上がっていった。

「もうタケちゃんたら、毎年、同じことを言って。」

武兄(たけにい)って、高校生になっても変わらないね。トシくんは中学生になって口数が減って来たけど。」

「バカは死ななきゃ治らないから・・。」

早紀はそう言い捨てて、階段の一番上に立って皆を見下ろしている武志を、あきれたように見上げた。


家族揃って本殿にお参りをして、そのままぞろぞろとお守りやおみくじを売っている場所に行く。

早紀がお守りを選び始めたので、恵麻は先におみくじをひきに行った。

そこでは母親がニマニマしながら伯母ちゃんと話をしていたので、尋ねてみる。

「お母さん、もうひいたの? 何だった?」

「お母さんは大吉だったわ! 今年は運が良さそう。」

「私は中吉。でもね旅行運が良かったのよ~。」

伯母ちゃんは、すっかり海外旅行に行くつもりらしい。

「私もひいてくる。」

「お金はあるの?」

「うん。」


いつものように筒を振って、ひっくり返して番号が書いてある棒を出す。

すると、今まで見たことのない朱色の棒が出てきた。

「なんだこれ? おみくじのやり方が変わったのかな?」

よくわからないので、おみくじ売り場にいた巫女さんに棒が出たままの筒を渡した。


するとそのお姉さんはサッと顔色を変えて、隣にいた巫女さんに一言二言ものを言うと、建物の横の出口から出てきて、恵麻を手招きした。

「おめでとうございます! あなたは七年に一度の運を引き当てられました。こちらはおみくじの紙ですが、神が宿っていると思って、この一年大切に携帯してください。」

「紙」と「神」で武志の言うようなダジャレかと思ったが、お姉さんが真剣な顔をしていたので、恵麻はその紙を捧げ持ってお礼を言った。

「ありがとうございます。大切に扱います。」


たたんであった紙を丁寧に開けて読んでみる。

そこには大吉などの言葉は書かれていなかった。


『念じたまま (かな)う』


「念じたまま」って、いつも書いてある言葉と違う感じ。いつもは「念ずれば叶う」って書いてあるよね。

それに書いてあるのはこれだけだ。

健康・旅行・探し物・学業・・・等々の欄もないし、和歌も書かれていない。

ちょっと拍子抜けっていうか、寂しい感じ。

巫女のお姉さんが大切に携帯しろっていうんだから、神社の枝とかに結び付けないで持っていた方がいいよね。

恵麻はそう思って、財布の中におみくじの紙を入れた。


財布の中がほんのり暖かくなったのだが、外の寒い中に立っていたので恵麻は気づかなかった。


 帰りの道中は信号がずっと青で、いつになく早く帰れた。

おばあちゃんの家の近くにあるデパートが新春初売りセールをしていたので、子ども達だけそこにおろしてもらう。大人たちは帰ってからお屠蘇で一杯やるらしい。

「最近は元旦でも開いてるからいいね。恵麻は福袋を買う?」

「ううん、買わない。本屋にいるからお姉ちゃんは行って来たら?」

「もう、また本屋? 好きだね。男たちはたぶんゲームセンターだから、私が用事を済ませたら本屋に行くことにする。違う所に行く時にはメールしてよ。」

「わかった。」


恵麻は姉の早紀と別れて、エスカレーターにのって二階の本屋へ行った。

ここの本屋は全体のスペースは狭いけれど、マンガコーナーは充実している。恵麻は年末に出たマンガをまだ買っていなかったので、最初に少女漫画の新刊本をチェックしに行った。

あちゃ~、売り切れてる。仕方がない、家に帰ってから近所の本屋に行くかな。


恵麻が雑誌のコーナーで立ち読みをしていると、店員さんの声が聞こえた。

「店長、お正月はバイトが少ないから本出しは三が日が済んでからするって言ってませんでした?」

「ああ、そう言ってたけどマンガだけは出しとこうと思って。お年玉で買いにくる子もいるだろ?」

本棚の影から覗いてみると、恵麻が買おうと思っていたマンガを店長さんがカートに乗せて運んできたのがわかった。

やったー! ラッキー!


恵麻は店長さんの作業が済むと、お目当てのマンガをレジに持って行った。

店長さんとレジのお姉さんが、「だろ?」「ええ、そうですね。」と目配せをして笑っていた。

恵麻も幸せな気分になって、本をギュッと胸に抱きしめた。


 早紀が福袋をさげて本屋へ来たので、二人でゲームセンターへ男三人を迎えに行った。

「恵麻ちゃんもやらない? 僕がクレーンでぬいぐるみを取ってあげようか?」

俊也が恵麻たちを見つけて側に寄って来た。

「トシくんは自分がやりたいだけでしょ。」

「へへっ。じゃあ恵麻ちゃんがやって。」

クレーンゲームのぬいぐるみを見ると、恵麻が好きなウサギのキャラクターが結構端っこに寄ってきていた。

あれなら取れるかもしれない。


久しぶりにゲームセンターで遊んだが、上手いことクレーンを操ってウサギのぬいぐるみをゲットすることができた。

ふわふわのピンクの耳を触るのが気持ちいい。もふもふだね。

そして従兄弟5人でカーレースをやった時には恵麻がぶっちぎりのトップだった。

「くそっ! 免許を持ってる俺がトップを取れると思ったのに。」

純兄(じゅんにい)が悔しがっていたけれど、最後のコーナーで武志と接触したのが敗因だったようだ。

ご愁傷様。


ふふん、何だか今年はいい感じ。運が向いてきたのかな。

恵麻の財布の中でおみくじがほんのり暖かくなっていたが、そんなことは誰も気づいていなかった。


おやおや。

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