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31 昼食をともに

 セガール宅へ到着すると、寛介とセガールの二人は向かい合って座った。この場にはその二人と、不安そうな表情を浮かべたホリーしかいない。トラは途中で『ほな、ワイはこれで失礼しまっさ、寛介の兄貴』と言って去っていき、ノノとナル、ララには寛介が宿に戻っておくよう指示したからだ。

 寛介は今回の経緯を説明した。もちろん、賢者が魔族とつながっていることなど、知っているとセガールたちへ危険が及びそうなことに関しては省いている。

「なるほどなぁ、だいたい事情はわかった」

 セガールはおもむろに立ち上がった。

「とりあえず、一発殴らせてもらうぜ」

「父ちゃん!?」

 その一言に、ホリーが声をあげる。寛介は黙って頷いて立ち上がり、抵抗する意志は全く無いとばかりに手を後ろに組んだ。

「嫁入り前の娘をひん剥いた分だ」

 セガールの拳が寛介の頬を捉える。寛介はそのまましりもちをついた。

 そしてセガールはその場で跪いて頭を下げる。

「カンスケ、恩人のお前に嫌な思いをさせちまってすまなかった」

「そんな、頭をあげてセガールさん」

 そう言ってもセガールは頭をあげない。

 しばらくしてようやく頭をあげたかと思えば、俺のことも殴ってくれなどと言い出すので寛介は困惑している。ホリーと二人がかりでようやくなだめることに成功したかと思うと、セガールはそそくさと外出の準備を始めた。

「町の皆には俺から説明しておくから安心してくれ、じゃあホリー、後は頼んだ」

「ちょ、ちょっと父ちゃん!」

 ホリーの返事を聞かずに、セガールは出ていってしまった。

「全く、勝手だなぁ。ごめんね」

「いや、おかげですっきりしたよ、やっぱり良い人だよな、セガールさんは」

「馬鹿なだけだよ」

 二人は笑いあった。その後、二人は時間も忘れてとりとめもない話をし、気づくと外も暗くなっていた。

「もう暗くなっちゃったね」

「そろそろ宿へ戻るよ、仲間も心配しているだろうから」

 寛介が立ち上がろうとすると、ホリーが少し上ずった声で呼び止めた。

「あ、あのさ、明日って何か予定ある?」


 翌日の昼、寛介は再度ホリーの家へ尋ねた。

「こんにちはー」

 扉の前に立ち、呼びかける。すると扉が開きかけたと思えば、閉まり、閉まったかと思うと開きかける。

「あのー、ホリーさん?」

 寛介が声をかけ、しばらくすると観念したかのように扉が開いた。

 中から現れたホリーは、普段のイメージからは想像できない程可愛く着飾っており、特に強調された胸元へ寛介の視線は吸い込まれ、心臓が跳ね上る。

「こ、こんにちは」

 ホリーは恥ずかしそうに目を伏せながら挨拶をする。

「ホリーさん、その服、とっても似合ってて可愛いよ」

「っ!?」

 寛介に褒められたホリーは赤面するが、同時にニヘラと嬉しそうに緩んだ表情も浮かべる。

「じゃ、じゃあ行こうか」

「う、うん。こっちだよ」

 ホリーに案内され、森を抜けて到着したのは川辺だった。降り注ぐ日光で水面は輝いており、近づくと底がはっきりと見えるほど澄んでいた。

「どう?」

「ああ、とても綺麗だ……」

 寛介の口は自然と動いていた。それが単純に川を見てなのか、それとも反射した光に照らされるホリーを見てなのか、わからないままに。


「お昼作ってきたから、食べよっか」

 ホリーがランチボックスを開くと、中にはサンドイッチやおかずが入っていた。

「あんまり、得意じゃないから、美味しくないかもだけど……」

 寛介がサンドイッチを頬張ると、口の中にテリヤキソースのような甘辛い味が広がる。懐かしい味わいに、あっという間に一切れを食べ終えてしまった。

「とても美味しいよ、ホリーさん! もう一つ良いかな?」

「もちろん、いっぱい食べてよ!」

 よほど、その一言が嬉しかったのか、ホリーは満面の笑みを浮かべていた。その後も寛介の手は止まることなく、むしろ加速していき、あっという間にランチボックスの中は空になった。

「全部食べてくれてありがと、気を遣ってくれたの?」

「美味しくてまだまだ食べられるよ。ホリーさん料理得意じゃないって言ってたけど、全然そんなことないじゃん」

「得意じゃないのは本当だよ、……カンスケの為だから、普段よりも上手く作れたのかも」

 ホリーの呟きは満腹で欠伸をしてしまっていた寛介の耳には届かなかった。

「ごめん、お腹いっぱいになったら眠くなっちゃってさ。ホリーさん、今何か言った?」

「何も言ってない!」

 ふん、とそっぽを向いてしまったホリーに、寛介は焦る。

「あの、ホリーさん……、話の途中に欠伸なんて本当に失礼だったよ、ごめん」

「……はぁ」

 寛介のあまりの鈍感さに腹は立つが、そもそも自分が素直に気持ちを伝えられないせいだとわかっている。しかし、ホリーはそのまま開き直って全て寛介のせいにすることにした。

「ホリー」

「え?」

「ホリーって呼んでくれたら許す、同じ年齢なのにさん付けなんておかしいじゃない」

 寛介は戸惑っていながらも、彼女の名前を呼ぶ。

「ホリー、ごめん」

「ん、許す」

 そう言ったホリーは、先程までの怒りもどこへやら、非常に嬉しそうな表情を浮かべていた。すると突然、ホリーは自分の膝を叩く。

「眠いなら、膝を貸してあげよう」

「えっ、それは……」

「眠いんでしょ?」

 圧に負けた寛介は恥ずかしがりながら、柔らかい膝に頭を置く。人肌の程よい暖かさと、女の子の甘い香りがする。

 優しく撫でるホリーの手により寛介は瞬く間に眠りに落ちてしまう。

 寛介が眠りに落ちたことを確認して、ホリーはつぶやく。

「――」

 そのつぶやきは、風に揺れる木々のざわめきにかき消されて、誰の耳に届かず消えていった。


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