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23 剛腕

 運良く生き残った魔獣たちは、戦意を喪失して森の奥へ逃げていく。

「逃がすか!」

 寛介が追いかけようとすると、ドンと鈍い音が鳴り響く。

「っ!?」

 警戒し身構えると、森の奥から大きな人影が現れた。

「ニゲル、ウラギリ、ダメ」

 現れた大男は二メートルを超える体長に、おびただしい量の贅肉をまとっており、額からは折れて短くなった角が一本生えていた。

 まだ真新しい血糊がついた巨大な戦斧を片手で軽々と担ぎ上げた大男は、周りを見回した後、寛介を指差した。

「ジャマシタノハ、オマエカ」

 返事を待たず、大男は寛介へ切りかかってくる。寛介は魔力操作で筋力と(ナル)を強化し、受け止める体制に入る。

 すると、焦った声が寛介に伝わってきた。

『いやいやいや、無理無理無理!』

 ナルがあまりに必死に叫ぶので、寛介は受け止めるのを諦め、弾いて受け流すことにする。

 受け流された戦斧はそのまま振り下ろされ、轟音を響かせながら地面を叩き割る。

(くっ、流しただけで手が痺れてる)

 正面から馬鹿正直に受け止めていたらどうなっていたか、寛介は想像してゾッとしているとナルから抗議の声があがる。

『痛―いっ! 何考えてるの!? 前から思ってたんだけど、もしかして馬鹿!?』

『まさかこれほどとは思わなかったんだよ、気をつける』

「ヨケルナ、ハヤク、シネ」

 大男は、寛介へ接近しながら、獲物を振り回す。振るたびに風を切る音が耳に届くそれは、明らかに致死性の衝撃を持っている。

 寛介は回避しながら反撃の機会を窺うが、大男の攻撃は止む気配がない。仕方なく、一旦距離をとった。

「見かけによらず体力があるな」

 あれだけぶんぶんと振り回していたのだから、息の一つぐらい上がってもいいだろうなどと考えながら、寛介は独り言をこぼした。

「チイサイ、アタラナイッ!」

 大男は寛介に攻撃を当てられないことへの不満から地団太を踏んでいる。大男が地面を踏むたびに、ドシンドシンと大きな音が響き渡る。それは地面が揺れているような錯覚に陥るほどであった。

『あんなに振り回されたら近づくのも一苦労だ、ナル何か手はないか?』

『ええ? いきなり言われてもなー、うーん』

 ナルはしばらく考えると、良いことを思いついたのか、したり顔(をしているかのような声)で考えを伝えてくる。

『振り回せなければいいんだよね? 良いこと思いついたよ!』


「なるほど、良い手だな」

 ナルの提案に対して寛介は頷くと、大男へ中指を立てて叫んだ。

「ヘイ、悔しければこっちへ来やがれ、このウスノロ!」

 中指を立てることが侮辱にあたるかどうかはわからなかったが、寛介は思いつく限りの挑発を行った。

「ゼッタイ、コロス!」

 無事(?)に挑発は成功したようで、大男は重い体を揺らしながら寛介へ駆け寄ってくる。「こっちだデブ!」

 寛介は挑発を繰り返しながら、移動する。

「オレ、デブジャナイッ!」

 怒りで我を忘れた大男は企みにも気付かず、誘導されるように森の奥へ寛介たちを追いかけて入り込んでいく。

 寛介が立ち止まっていると、追いついてきた大男は、

「オイツイタ! コロス!」

 右手に持った戦斧を大きく横なぎに振るった。寛介がバックステップで躱すと、振るわれたそれは木の幹へ深く食い込んで止まる。

「今だ!」

 目論見通りの展開に、寛介は一転して反撃する。距離を詰めて、すれ違いざまに大男の脇腹を切る。

「ギャア!」

 そのまま大男の背後へ回り、剣を振りかぶり、斜めに振り下ろすと、大男の背中を大きく切り裂いた。

 大男もされるがままというわけではない。木に食い込んだ斧を引き抜くと、再度斧を振り回す。しかし、森の木に邪魔をされ、寛介へ傷をつけるどころか、彼に攻められる隙を作ってしまうだけであった。

 戦況は明らかに寛介が有利である。しかし、時が経つにつれ、寛介はどこか違和感を覚えていた。そうして、ようやくあることに気が付いた。

「あいつ、傷が治ってないか?」

 寛介の攻撃によりつけられたはずの男の傷が消え、つい先ほどつけた傷でさえ塞がろうとしていたのである。

 折れているとはいえ、額から角を生やした大男は紛れもない鬼人族である。つまり、リアンの町に現れた男と同じで種族特性[再生]を持っている。その事実や対策を寛介は知っているわけもなく、ただただ驚くしかない。

「どうしろっていうんだよ、こんなの」


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