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22 スクロールカード

 ――メソの冒険者たちは苦戦を強いられていた。破格の報酬に初めは意気込んでいた冒険者達であったが、それだけではいくら討っても減らない魔獣たちを対して、モチベーションを維持することも難しいのだろう。

「一体どれだけいるんだ!」

「知るか!」

 疲労に加えて、士気の低下は動きを鈍らせ、ついにある冒険者が魔獣の鋭い爪で切り裂かれた。

「くそっ、もう無理だっ!」

冒険者たちは次々と負傷し、撤退していく。ついには満身創痍のトラを残すだけとなった。

「あかん……、わいも年貢の納め時か……」

『命あっての物種や、危なくなったら必ず退くんやで』

 トラはカンダの命令を思い出していた。普段であれば兄貴分の命令に反することはあり得ない。

「アニキ、すんまへん……。わいはっ!」

 しかし今、その命令だけは聞くわけにはいかなかった。

 カンダは彼の恩人だ。亜人として生まれ、搾取されるだけの人生を歩むはずであったトラの人生を百八十度変えた。それはまっとうな道ではなかったかもしれない。しかし、彼は確かに救われた。受けた恩は返さなければならない、いや、返したかった。

「死んでも、ここだけは!」

 最後の力を振り絞り、敵を蹴散らしていく。その勢いは鬼気迫るものであったが、一般冒険者程度の力を持った彼では、多勢に無勢であった。

「ガァ!」

 複数の魔獣が同時にトラに飛び掛かる。もう彼にそれを防ぐだけの力は残っていなかった。

「っ!」

 倒れたのはトラではなく魔獣だった。足へ矢が突き刺さったそれは、起き上がろうとするも、さらに突き刺さった二本目の矢により絶命した。

 トラが唖然としていると、大きな声で呼びかける声が聞こえてくる。

「トラさん! 衝撃に備えてっ!」

 訳も分からず、言われるがままに身構えると、魔獣の群れの中心で圧縮された空気がはじけた。

 爆音の後、すさまじい衝撃がトラを襲った。吹き飛ばされそうになるのを必死にふんばって耐える。

「あんたは……」

「間に合ってよかった、トラさん」

「カンスケの……兄貴……」

 寛介の名を呼ぶと、トラの足から力が抜け、その場に倒れこんだ。

「トラさん!?」

「大丈夫ですか!?」

 ノノが倒れたトラへ駆け寄り、様子を確認する。ホッとした表情を浮かべると、寛介へ向かって報告する。

「大丈夫です、カンスケ様。気を失われているだけです」

「そうか……、ノノはララと一緒にトラさんを安全なところまで連れて行ってくれ」

「しかしカンスケ様、お一人で大丈夫ですか?」

 ララが使用した[エアバースト]から逃れた魔獣たちは遠巻きに警戒している。その警戒は次第に怒りの感情へ変わっていき今にも飛び掛かってきそうなほど興奮し始めていた。

「ああ、問題ないよ」

 そういうと、寛介は(ナル)を手に取った。

「俺が相手だ、かかってこい!」

 寛介は気勢を上げながら、近くの魔獣を切り捨てる。ノノ達が無事に退却できるようあえて目立つように立ち回っていた。目論見通り魔獣たちの意識が寛介へ集まっていく。

(カンスケ様、怪我しないでくださいねっ!)

 折角寛介が集めた敵の意識をこちらに向けないよう、ノノは叫びたくなる気持ちは胸に収める。


「ナル、頼んだぞ」

『はいはーい、ご主人様も頑張ってね』

 気が抜けそうになるような声だが、寛介にとっては適度に緊張が解けてちょうど良い。

「シャアッ!」

「はぁっ!」

 背後から奇襲を仕掛けた魔獣に対し、振り向きざまに一閃で切り伏せる。特務部隊との対複数を想定した訓練を通して、彼らの視界外からの攻撃にも対応できるよう訓練を積んだ寛介は、自分の成長を改めて実感した。もはや低知能の魔獣であれば、遅れをとることはない。

 ただ、あまりに時間をかけると、敵わないと逃げ出した魔獣がメソやその他の町、街道へ流れつき、住民らに危害を加える可能性もある。

 一気に決着をつけるため、寛介はウエストバッグからスクロールカードを取り出した。

 寛介は取り出したカードへ魔力を注ぎ込む。魔力は特殊なインクでカードに描かれた魔法陣をたどっていく。たどりきった魔力は白い光で魔法陣を描き浮かび上がった。

「[氷雨(アイスレイン)!!]」

 魔法名がトリガーとなり、スクロールに描かれた魔法が発動する。発動により、直径二センチほどの氷の塊が生成され、加速する。それは体を貫通して死に至らしめる雨となり魔獣の群れへ降り注いだ。


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