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19 救援へ

 ――帝国特務部隊の最終試験により寛介は名実ともに帝国軍の協力者として認められた。

 メソの近くで瘴気溜まりが確認されたとのことで、調査任務を請け負った寛介たちは目的地へ向かっている最中である。

「カナエさんと第二王子様がお会いするのって今日ですよね?」

 歩いていると、ノノが思い出したかのようにそう言った。

「そうだな、時間的にもそろそろ会っている頃だろうな」

 それを聞いたのはララから得た情報をマクスウェルに念話珠で伝えているときだった。

「情報交換と今後の協力を提案すると言っていたな、選挙に向けて本格的に動くということだろう」

 バルスタ王国の王位選挙は第一王子の信任投票である。王国を守るためには賢者ガウスの傀儡である第一王子の派閥の目論見を暴き、第二王子であるマクスウェルが王位につくことは最低条件である。

マクスウェルにとってカナエという人物と協力関係を結ぶことは、情報収集や派閥戦力の強化において重要である。

「だけど妙に嬉しそうだったな、あいつ」

 マクスウェルとミリアム(カナエ)の関係を聞かされていない寛介は、会談の予定を嬉々として話すことが不思議でならなかった。

「っ!」

 歩いていると突然、ララが肌を震わせて立ち止まった。

「どうした?」

「い、いえ、あちらからとてつもない気が……」

 ララが指をさす方向を見るが、寛介の目には何も映っていない。すると、ナルが震え声で信じられないと洩らす。

「空にとてつもなく濃い瘴気が渦巻いてる……」

「カンスケ様、あっちって……」

「ああ、カナエさんの屋敷の方向じゃないか!」

 焦るカンスケに念話が届いた、マクスウェルからである。その声からは緊張が読み取れた。

『カンスケ! 今どこにいる!?』

『依頼を受けてメソに向かっている道中だった、その焦りようからするとやっぱり何かあったのか?』

『ああ、魔族がミリ……、いやカナエ殿の屋敷を包囲したようだ』

『カナエさんは? 美子は大丈夫なのか?』

 屋敷には意識を失った美子がいる。寛介は気が気でなかった。

『こちらはカナエ殿による結界が張られているらしいから、もうしばらくは――』

 なにかが起こったのか念話が途切れる、戦々恐々としていると再び念話が送られてきた。

『不味い、魔族がメソとリアンを占拠しようと進んでいる!』

『本当なのか?』

『カナエ殿が[遠見]で確認された、間違いない』

 メソやリアンの町には常駐する兵士がおらず、非常に危険な状況である。冒険者などであれば滞在しているかもしれないが、彼らに町を守る義務はない。最悪の場合、戦える者がおらず町が蹂躙される可能性もある。

『カンスケ、君はメソの町に向かってくれ』

(当然そうしたい、だけど……そっちには美子が……)

 即答できず寛介が逡巡していると、それを読み取ったのだろうマクスウェルが続ける。

『気持ちはわかる、だがこちらは私とカナエ殿に任せてくれないか、このままではメソの町は壊滅してしまうかもしれない!』

 メソの町が壊滅する、そうなると――

(ホリーさんや、セガールさんも危険にさらされるっ!)

 寛介はぐっと拳を握りしめて、決心したように宣言した。

『こっちは任せてくれ、だがリアンの町は大丈夫なのか?』

『ああ、そちらは問題ない』

『気をつけろよマックス。あと、妹を頼む』

『そちらも』

 念話を終えると、寛介は大きく息を吸い込み、少しずつ吐き出した。

「カンスケ様……? 一体何が?」

 ノノが憂いを帯びた声で寛介へ話しかける。

「皆、予定変更だ。メソの救援に向かう、事情は移動しながら説明する!」


――魔族が率いる魔獣の群れが町に近づいてきているという情報が町にもたらされたのはつい先程のことだった。

「大変だ! 魔獣がこの町に向かってくるぞ!」

「何!? 数は、どんな魔獣だ!?」

 見張り番が報告した冒険者に詳細を聞くと、冒険者は震える声で叫ぶ。

「狼、小鬼、大鬼、見たこともねぇやつもいた! ともかく数え切れねぇ、少なくとも200はいるぞ! もうダメだ、おしまいだ! あんな数、処理できねぇ!」

 町中でそのようなことを叫んだ結果、不確かな情報に尾ひれがついてまたたく間に広まった。戦える冒険者は数少なく、尾ひれのついた噂に冒険者たちは、圧倒的な戦力不足に二の足を踏んでいる。そんな彼らへ特徴的なアクセントで言葉をかける人物が現れた。

「ほんま冒険者っちゅうのは、エラい腑抜けしかおらんのでんなぁ」

「なんだと!?」

「そない大きな声で喋らんでも聞こえますがな。魔獣相手にもそれぐらいの勢いでいってほしいもんでんな?」

「ぐっ、一体誰だお前!」

「申し遅れましたなぁ、金貸しやっとります、カンダですわ」

 いかつい顔に笑顔を貼り付けてカンダが冒険者に名乗る。

「金融屋風情が何を偉そうに――」

「――金貨一枚」

「……は?」

 カンダは人差し指を立てて、冒険者たちに言って聞かせる。

「魔獣一匹で金貨一枚、報酬としてお支払いしますわ。どうでっか?」

 魅力的な提案であるはずだが、反応は良くない。すると冒険者の中の一人が大きな声で叫んだ。

「ほんまかいな! よっしゃ、ならわいが魔獣全部ぶち殺して報酬独り占めや!」

 カンダと同様に特徴的なアクセントで亜人種の男がそう言うと、冒険者たちがざわつき始めた。

「俺もやるぞ!」

「俺もだ!」

 冒険者たちは口々に参戦を宣言し、魔獣を迎え撃つべく町の外へ向かっていった。

「ようやったトラ、お前も行ってこい。せやけど、命あっての物種や、危なくなったら必ず退くんやで」

「へい、アニキ!」

 トラは元気に返事をすると冒険者達を追いかけていった。一連の様子を見ていた住民が尋ねる。

「カンダさん、どうしてそこまで……」

「この町には稼がしてもらってまっからなぁ、日頃の礼みたいなもんですわ。これからもカンダ金融をご贔屓に」


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