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17 特務部隊②

色々とあり、間が空いてしまいましたが必ず完結させます。

どうぞ今後とも宜しくお願いします!!

 現実は無常である。強敵を前に力が覚醒し上回る、そのような奇蹟はそう簡単に起こらない。

「ガッ!」

「ッグ!」

 ハインツに勢いよく飛び掛かった寛介とヨナは、カウンターをもらい吹き飛ばされる。

「まだやれる!」

「ああ、このオッサンに絶対一泡吹かせるぞ」

 自分を奮い立たせるかのようにそう言うと、ヨナと寛介は立ち上がり、武器を構える。

 ハインツが動く様子はない、あくまで胸を貸すつもりなのだろう。手を広げて、ノーガードをアピールしている。

 それを受けておもむろに飛びかかろうとする寛介をみたヨナが、諌めるように口を開く。

「わかりやすい挑発に乗るな、一人じゃ無理だってわかっているだろう」

「ちっ、ならどうするんだ」

「そうだな――」

 ヨナが考えを伝えると、寛介は激高した。

「ふざけんなっ! やってられるか、俺が一人でやってやるよ!」

「なんだと!? 勝手にしろ!」

 売り言葉に買い言葉、ヨナも寛介を突き放すようにそう言い放つ。

 後先を考えない特攻を仕掛ける寛介は、何度も地面へと転がされる。

「どうしたどうした、もう終わりか?」

「――ア゛ァ!」

 わかりやすく叫びながら寛介が距離を詰めて打ってかかる。ハインツは打ち込みを受け止めてみせる。

(ぬっ!?)

 ハインツの武人としての勘が警鐘を鳴らす。これは先程までの投げやりな特攻ではない、意図を持った行動であると。

(本命はヨナか!)

「おらぁ!」

 ハインツの意識が一瞬だけ寛介から離れた瞬間を見逃さない。寛介は待っていたとばかりに力強くハインツの左足を蹴りつける。

 何でもないその蹴りをくらったハインツは味わったことのない種類の痛みを感じ、左足が麻痺したかのように動かせない。

「ぬっ?!」

「今だっ! ヨナ!」

「任せろ、カンスケ!」

 ほんの僅かな隙をつき、ヨナが仕掛ける。鋭い突きがハインツのみぞおちあたりに突き刺さる。

「よしっ!」

「効かんなぁ」

 みぞおちあたりに深々と入ったにもかかわらず、ハインツは顔色一つ変えていない。反撃を警戒した二人は彼から距離をとる。追撃することもなくハインツは嬉しそうに口を開いた。

「なかなか良い連携だ。あの蹴りには驚いたぞ、儂の足を一撃で止めるとはな」

「カーフキックって名前だったかな、[鎧通]も使ったけど、上手くいってよかったです」

 カーフキックはふくらはぎを狙って蹴る技術である。ふくらはぎの筋肉は非常に薄く、鍛えていたとしても神経へのダメージが通りやすい。さらに寛介は衝撃を確実に浸透させるためにスキル[鎧通]も併せて使用し、一発の蹴りでハインツの足を麻痺させた。

「ヨナもよくやった。途中の喧嘩は儂の油断を誘うためのブラフか」

「卑怯な方法でしたが、これしかありませんでした。叱責は覚悟の上です」

「まさか。最後の一撃、見事だったぞ」

「あ、ありがとうございます」

 褒められたヨナであるが、浮かない様子だ。全力での打ち込みにもかかわらず多少のダメージも与えられなかったことにショックを受けているのだろう。

「そう情けない顔をするな、使っていたのが本物の槍ならば、儂も無傷とはいかなかっただろう」

 心中を見抜かれ、情けなさ半分照れくささ半分といった表情を浮かべながら、ヨナは苦笑いする。

 ハインツは、満足そうな顔で口を開いた。

「さて、準備運動は終了だ。ここからが本番だぞ」

 その一言に寛介たちの顔が青くなる。にんまりと笑うハインツのその顔が悪魔のように見えていた。


「本日の訓練は以上だ」

(死ぬかと思った……)

 寛介は辛うじて意識を保ちながら、心の中でつぶやいていた。

 しばらく休んでようやく体も動かせるようになった頃、気を失っていたヨナが意識を取り戻した。

「カンスケ……俺はお前には負けないからな」

 ヨナは寛介に向き合ってそういった。言葉に反して、その態度に棘はなく、明らかに数時間前よりも和らいでいる。返答も待たずに、ヨナは重い体を引きずって訓練場を去っていった。

「疲れた……」

 残された寛介は、深く息をつき、口を開いた。

「帰るか……」

『もうノノちゃん先輩たちも戻ってる頃かもね?』

 いつの間にか傍らに在ったナルが声をかけてくる。

「ああ、ナル、いたのか?」

『端でずーっと見てたよ、ご主人様の雄姿をね』

「うるせえ」

 演技がかったナルの皮肉を鼻で笑い飛ばした寛介は訓練場を後にした。

重い体を引きずって宿に到着すると、ノノとララもすでに宿に戻っており、帰りの遅い寛介たちを心配して待っていた。

 寛介に傷があるのを見て騒ぐノノを落ち着かせ、寛介は夕飯を取るとすぐに布団に入り泥のように眠りについた。

 次の日からは午前中に自治協会の簡単な仕事をこなしてから、午後に特務部隊での訓練に参加することとなった。


 寛介は毎日ボロボロになりながらも、着実に成長を遂げていく。

 ついに最終試験と銘打って、辛酸を舐めさせられたレネ、カール、ニコライとの対複数人戦闘と同じシチュエーションの訓練が行われた。ところが始まって間もなく、弾き飛ばされた木剣がドスッと鈍い音を立てて地面に転がる。

「参った」

 武器を失ったレネが手を上げる。

「ありがとうございました」

 寛介は三人と握手をし、礼を言うと先ほどから自分を射抜かんとする鋭い視線に振り替える。

「カンスケ」

「ああ」

 名を呼び、返事をする、言葉はそれだけで十分だった。

「ガハハ、本当に若造というのは成長が早い」

「そうですね」

「やつらを見てると儂も滾ってくるのう、どれ、混ざってくるか」

「えっ、隊長!?」

 ハインツは次第に激しさを増していく二人の戦いを見てそう言うと、止める間もなく嬉々として飛び出していく。その背中を見送ったあと、レネは倒れているカールとニコライに声を掛ける。

「おい、いつまで寝たふりをしてるつもりだ」

「バレてた?」

「今のカンスケくんとヨナならわざわざ混ざらなくても大丈夫じゃないか?」

 馬鹿野郎とレネはニヤリと口元を歪める。

「それこそ隊長に土をつけるチャンスだろう」

先ほどまでの忠実な部下の仮面からは想像もつかないギラついた表情に、カール、ニコライも「乗った」と立ち上がり、三人はハインツの背を追っていった。


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