14 指定依頼④
『それでは始め!』
三対一の圧倒的に不利な戦いが始まった。寛介の使う武器は変わらず木剣である。
カール、ニコライ、レネと呼ばれた三人も寛介と同じ木剣を持って構えている。
「配置につけ!」
三人の中でリーダー各のレネが合図を出すと残る二人が「応!」と返して移動する。三人は寛介の周囲を、三角形を描くように取り囲んだ。
「大人気ないとは思うが我々にも面子があるのでな。負けっぱなしというわけにはいかないのだ。悪く思うなよ、少年」
複数人で一人を相手にするのは問題ないのかよ、などと考えながら寛介は包囲から逃れようとするが、三人は息の合った動きで寛介を取り囲み続ける。
ジリジリとプレッシャーをかけながらも、彼らが動く気配はない。動かない状況に焦らされた寛介は一点突破を狙い、レネに斬りかかる。
「まずはグループの頭を狙って指示系統の混乱を誘う、良い判断だ」
剣と剣がぶつかり合う音が響く、鍔迫り合いになり寛介の動きが止まってしまう。突破には失敗してしまい、次の手を考える間もなく三人の猛攻が始まった。
鍔迫り合いで動きの止まった寛介に編み込んだ髪が特徴的なニコライが斬りかかる。バックステップで躱す際にタイミングを合わせてレネに剣を強く押し込まれ、バランスを崩してしまう。
「しまっ――」
「ちぇーっ!」
ニコライの剣戟を躱しながらもバランスを崩した寛介の隙を見逃さず、カールが斬りかかった。
すんでのところで剣で防御するも、バランスを崩し勢いを殺しきれなかった寛介は、背中から叩きつけられる。
「かはっ!」
そしてそのまま起き上がることはできなかった。
『そこまで! 特務部隊の勝利だ』
観客席が拍手喝采で盛り上がる。そこへ向かって浮かれるように手を振るカールとニコライとは違い、レネは自分の手を見つめて立ち尽くしている。その様子を見たハインツが話しかけける。
「どうした? 勝ったのに浮かない顔だが?」
「いえ、大したことではないのですが」
レネの手を見たハインツは目を疑う。レネは特務部隊の中でもハインツに次ぐ強さを誇る人物である。実際に彼は寛介の攻撃を見事に剣で防いでみせた。
「レネお前、その手……」
「はい、咄嗟に木剣を魔力で強化しましたが、少しでも遅れていれば私の頭は割られていました。流石に身体強化までは間に合わず、このざまです」
腫れ上がった手が先程の寛介の一撃の強力さを物語っている。
「大佐、おわかりいただけましたか?」
いつの間にかハインツの後ろに立っていたフリードが、したり顔で話しかける。
「おいフリード、こいつを儂達に預けろ」
不機嫌な顔を作って見せているが、その爛々と光る眼が寛介への興味を隠しきれていない。
「こんなアンバランスなやつは見たことがない、まるで野生の獣だ」
ハインツの評価は言い得て妙だ。ただの中学生だった寛介は生き残るために戦ってきた。生きるために狩りをする獣と本質的には同じかもしれない。
「面白い表現ですね。大佐からそのように言っていただけるとは」
芝居がかったフリードの口調に、苛立ちを隠さずにハインツは口を開く。
「けっ、どうせお前のシナリオ通りなんだろうに。まぁいい、おいヨナ!」
「はい、隊長」
「罰はまけといてやる、代わりにこいつを医務室まで運べ」
心底嫌そうな顔を隠さないヨナだったが、大佐の命令ならばと寛介を医務室まで運んでいった。
「いい機会かもしれん、ヨナにも同世代のライバルが必要だからな」
誰に聞かせるでもなくそう呟いたハインツは、息子を見るような目で彼を見送っていた。