11 指定依頼
「おいおい、また大量に買ったもんだな」
ノノが持ち帰った荷物を見て、寛介は驚いてそうつぶやいた。
「いえ、買ったのは少しだけなんですけど、雑貨屋の店主さんのご厚意を断りきれなくて」
実際、お金を出して買ったのは持ち帰った荷物の三分の一ほどである。
「まぁ痛みそうな物もないし、宿屋に置いておけばなんとでもなるか」
寛介たちは、本拠地として自治協会近くにある宿屋の広い一室を、期間契約で借り受けていた。もちろん正規の利用方法ではなく、フリードの口利きにより可能な裏技である。
賃借料は王国の企みに対して帝国(正確にはフリード)と共闘するということで、フリードの扱える軍務予算から支払っているそうだ。少将ともなると莫大な額が割り振られているらしい。寛介が断っても
「カンスケ様、明日も一日おやすみを頂けますか?」
ノノが自ら休みたいということは今までなかったので、驚いた寛介であったが、断る理由もないので当然許可をする。
「ああ、問題ないが。どうするんだ?」
「いえ、ララさんの装備や服を買わないと行けないので、一緒に行こうかなと思って」
「確かにそうだな」
ナルの時は服を含んで自分の好きな姿で人型に変身できたためそういったことは気にしていなかった。
服を選ぶセンスに自信などない寛介がノノの申し出を却下する理由ない。街中でのノノの扱いも悪くないようだし、申し出どおり任せることにする。
「なら、頼んでいいか? 俺は適当に依頼を受けておくよ。ナルはどうする?」
「んー、ご主人様が依頼を受けるなら私も行ったほうがいいよね」
ナルがいるかいないかで寛介の戦力は大きく変わるため、戦闘が発生する可能性があるなら一緒に行動するのが無難である。
「わかった、じゃあノノ気を付けるんだぞ?」
「はい、カンスケ様」
翌日、寛介は黒い剣を背負って自治協会を訪れていた。
「カンスケさん、今日もよろしくお願いしますね~」
寛介が顔を出すやいなや、ジョゼフィーンは嬉しそうにリストを取り出した。
どうやら、寛介に頼もうと思い、あらかじめ選別していた依頼リストらしい。
「大蛇の一件で、寛介さん専用のリストを作ることになったんですよ~」
依頼処理の効率化を目的として、良い働きをする冒険者には仕事を選別して回すようになっているらしい。依頼選択の自由度は狭くなるが、その分報酬が上乗せされるそうだ。もちろん、通常のリストから選ぶことも禁止はされない。
しかし、せっかくなので寛介はリストから依頼を選ぶことにした。その中の一つの依頼に寛介は目を疑う。
[冒険者カミヤ・カンスケ殿指定依頼]
依頼内容:軍事教練への参加
「なんだこれは……」
思わず二度見を試みるが、何度見ても自分を名指ししている依頼だ。
「ああ~、それはフリード様が出された依頼ですね~。なんでも、帝国軍内でもカンスケさんの評価が分かれていて、口で説得するのが面倒になったらしいですよ?」
フリードやその部下たちとは違い実際に寛介の力を見ていない者たちが、よそ者である彼の力を頼ることに関して意見しているようだ。
「それで訓練に参加して力を示せって? 無茶苦茶だ……」
「断るの?」
ナルが声をかけてくる。心から見なかったことにしたい寛介であった。しかし、そうすることでフリードの立場が悪くなる可能性もあると考えた彼は、仕方なくその依頼を引き受けることにする。
「ありがとうございます~、それでは、お城の方に向かってくださいね~」
寛介は城に向かうために教会を出たが、その足取りは重いものだった。