10 据え膳
宿に戻った寛介たちはララを休ませることにした。
まだ本調子ではないララは、申し訳なさそうにしながらもすぐに眠りについた。
「ノノとナルも今日は一日、自由にしてくれていいぞ」
「本当? じゃあノノちゃん先輩、一緒に街をブラブラしようよ」
「そうですね、お言葉に甘えましょう」
二人は楽しそうにあれをしよう、これを買おうと話しながら、宿屋から出ていった。
ふと寛介がララに目をやると、彼女が寝返りをうった。その拍子に、胸元がたぷんと揺れる様子を見てしまう。
「っ!?」
たまたま目に入っただけ、見るつもりはなかった、などと誰に対する言い訳なのかもわからないことを考えながら、いたたまれなくなった寛介は部屋から出ることにした。するとその背後から声がかかる。
「い、行かないで」
その声には怯えが含まれている。
「一体どうしたんだ?」
「あの、怖くて……、人間の街が」
それはそうか、と寛介は思う。逆の立場で考えれば当然だ。
「ごめん、配慮が足りなかった」
「わ、私こそ我がままでごめんなさい」
「じゃあ、安心して休んでくれ」
「ありがとうございます」
寛介は椅子に座った。ララは安心したのか、再度寝息を立て始める。
意識しないようにと意識するほど、寛介の男の部分が刺激されてしまう。カナエとは違う、どこか儚さを感じるララの色香に静かに興奮してしまっていた。
悶々としながらも、間違いを犯せるほど度胸のない寛介は目をつぶって他のことを考える努力をするしかなかった。
ノノとナルは雑貨店に来ていた。根強くはないにしても少なからず亜人差別のある帝国だが、先日の一件で怪我をした兵士や街の人を治療したノノは受け入れられていた。むしろ差別以上に厄介な過激派ファンも存在するようだ。
この雑貨店はノノが治療した兵士の実家らしく、特に好意的に迎えられていた。
「ノノちゃん先輩、嬉しそうだね」
「はい、こんなに良くしてもらえるなんて今までなかったので」
ノノは涙目になりながら温かい対応に喜んでいる。
「ノノちゃんに変なことするやつがいたら俺たちが許さないから安心しな」
雑貨屋の主人がそう言って胸を張る。
「ありがとうございます」
ノノ達は雑貨屋で調味料や、保存食の追加を行った。サービスと言いながら増えていく荷物を、もう持てないのでとやっとのことで断り(荷物なら宿まで運んであげるよと言い出す者まで出る始末だった)、宿屋へ引き返したのだった。