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6 ララ

「もう日も暮れる、どうぞ町で休んで行ってください」

「いえ、早く協会に知らせなければなりませんので」

 といった具合の問答が言葉を変え数度繰り返されたあと、寛介たちは帝国へ向かい進み始めた。

 ホリーに挨拶できなかったことが悔やまれるが、セガールが最低限の情報は伝えてくれるだろうと切り替えることにした。

「あの、リーダー、ありがとう」

「もうカンスケでいいよ。これで森の大蛇は冒険者によって排除されたって情報が流れると思う」

 先ほどの演技中はセガールがいたので名前を呼ばないでほしいと頼んだが、もうその必要はない。キアラは了解したと首を縦に振ることで返答する。

「はい、その情報が流れればおそらく大丈夫かと思います。冥界軍において私たちナーガシュ家は取るに足らない存在ですので」

 重要な情報を持っているなら、それこそ死体を確認するまで捜索が続くかもしれない。ただ、見せしめのためだけであればそこまでの手間はかけないだろうとのことだ。

 先ほどから何かを考えて言う様子を見せていたノノが、少しいいですか、と口を開く。

「キアラさんが、これから使っていく名前を考えた方が良いのではないか思います」

 冒険者として活動していくなら、名前を名乗る機会もある。美しい白髪で容姿端麗、蛇の亜人種のような姿をしている冒険者の名前がキアラということが知れれば、キアラ・ラ・ナーガシュがまだ生きていると考える者もいるかもしれない。

「私も賛成。警戒して悪いことはないよね」

 ナルもノノの意見に賛意を見せる、キアラの方も特に異議はないようで判断は寛介に任されることになった。

「そうだな、確かにそうした方がいいだろう。どういう名前にすればいい? 自慢じゃないが名前を考えるのは苦手だ」

 寛介は小さい頃、親せきから引き取ったハムスターにハムという名前を付け、家族に馬鹿にされたことを思い出していた。とはいえ、いいアイデアがすぐに出ることもなく、ついに沈黙に耐え切れなくなった寛介が半ばやけくそ気味に提案する。

「なら、名前の真ん中ぐらいをとってララってどうだ?」

 寛介は我ながら安直な名前の付け方だと思いながら、反応を待つ。

「いい名前です」

 そんな寛介の心配をよそに、意外とキアラ本人は気に入ったようだ。ノノとナルが何か言いたげな目をしていたが、見なかったことにした。

「本当にいいのか?」

「はい、私には少し可愛らしすぎる名前な気がしますが、不満はありません、気に入りました」

「それじゃララ、これからよろしく」


 帝国に戻る道中では、ララの使える魔法やスキルなどの情報交換を行った。

 その中で分かったことは、ララは空気を操る魔法を得意としており、スキルとして使える魔法も多いようだ。近接戦闘の素養はなく(鱗の部分の防御力は高い)、遠距離から攻撃や補助を中心に戦闘に参加することになった。

 野宿する場所を探していると、野盗に遭遇した。

「お兄さん、かわいい子三人も連れちゃって、俺たちにも分けてくれよ」

「はあ……」

「何ため息ついてんだコラ!?」

 寛介がため息をつきたくなるのも当然だ。

「これで三回目かー、野盗に好かれてるね、ご主人様?」

 ナルが寛介を煽るようにそう言う。彼女の言う通りメソを出て既に二回、そして三回目になる野盗の襲撃は、寛介にとってただただ面倒なものであった。

「痛い目にあいたくなければ、早く――」

「なめんじゃねぇ!」

 さらに、予想通りの反応が寛介の頭痛を加速させる。

 怒り狂った野盗の攻撃は寛介に届くことはなかった。

「[エアバースト]!」

 圧縮された空気の塊が野盗へ飛ぶと、当たる直前に圧縮されていた空気が解放される。暴風が野盗を襲い、吹き飛ばされた野盗たちの中にはショックで気を失った者もいた。

気を失わなかった野盗数人が、信じられないとばかりに寛介ではなくララを見ている。

「カンスケさん、手加減これぐらいでいいですか?」

「ああ、上出来だ」

 寛介が言おうとした「痛い目にあいたくなければ、早く目の前から消えろ」という言葉は、煽りや脅しのつもりは全くなく、単純に野盗の身を案じてのものだった。

 一回目の野盗はララの使った[鎌鼬]により、数人腕を失った。二回目の野盗は同じ[エアバースト]でも空気の圧縮率が高すぎ、あまりにも高く飛ばされてしまい衝撃で全身の骨を折ってしまった。

 野盗をどうしようと罪に問われることはないが、恨みを買って盗賊ギルド(というものがあるという話をカナエから聞いている)に狙われるのもたまったものではない。よって、寛介たち一向は、野盗を殺さず、できるだけ傷つけず、意識を奪うという対応を取ることにした。

「大人しく引いてくれるならこれ以上危害は加えないし、どこかに報告するつもりもない」

 力の差を理解できる者だったのだろう、特攻などを仕掛けることもなく大人しく気を失った仲間を引きずって消えていった。

「もうこれで最後だよな?」

 残念ながら最後にはならず、再度襲撃を受けることになる。とはいえ、同様にララにより瞬殺され、野盗たちは逃げ去ることになるのだった。


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