1 プロローグ
気持ちを新たに新章を進めていきたいと思います。
今後ともお読みいただければ嬉しいです。
よろしくお願いします。
現代日本からバルスタ王国へ賢者ガウスに召喚された神矢寛介は[無能]の加護を得た。一時は勇者として祭り上げられた寛介だったが、不要であると殺されかける。その危機を第二王子マクスウェル・バルスタにより命を救われ、彼に協力することとなる。同時に召喚に巻き込まれた妹、神矢美子には[月の勇者]の力が発現する。賢者は勇者の力を我がものとするため、美子に何らかの洗脳魔法をかけるのだった。
命からがら王国を脱出した寛介は、妹がそこにいるという賢者の嘘を真に受けたままソロン帝国を目指す。
王城を出て最初にたどり着いたメソという町で出会ったセガールと共に訪れたリアンの近くには魔女の城と呼ばれる屋敷があった。そこで寛介は占星術師カナエと名乗る青髪の麗人と出会い、鍛えられる。そのおかげもあり、寛介は王国兵士に追われながらも何とか追手を巻くことができた。その道中では魔獣に襲われ全滅した奴隷商人の馬車から王国の貴族へ売られた亜人の少女ノノを救い出を共に行動することとなった。危機を共に切り抜けた経験が二人の絆を深めていった。
その後カナエの助言により寛介は賢者の嘘に気がつきながらも、危険を伝えるために帝国へ向かう。そこで帝国軍少将フリードと出会い、その紹介で自治教会の依頼を受けるために森へ入ると、冥界軍の魔騎士ボーマンと接敵した。魔剣の力で互角に戦うもノノと共に致命傷を受けてしまう。
意識を失い、夢の世界で魔剣ナルと契約を交わした寛介は、帝国を襲撃したボーマンをフリードと共に撃破することに成功した。
同時刻、ボーマンの襲撃を受けた南門とは真逆の北門は王国の勇者を名乗る者の襲撃を受けていた。寛介が北門へ向かうと、そこに居たのは美子だった。再会を果たした兄妹であったが、操られ暴走した美子は寛介を殺そうとする。苦戦する寛介は、ナルのスキルで限界以上の力を行使しながら、フリードの協力を得てようやく美子の無力化に成功した。
フリードの育った家でカナエと再会した寛介は、ミリアム・プランケットという彼女の本当の名前と[星の勇者]としての力を知る。寛介は賢者を失脚させ、マクスウェルへ王位継承をさせるために動くことを決意した。
――王位選挙まで後十ヶ月をきった頃、寛介はメソの町に来ていた。自治協会にあった依頼を解決するためである。
メソは王国領であるが、過去王国領内の依頼を多く引き受けていたというプランケット家の亡命により手が足りなくなり、最近では王国領でも特に帝国に近い町などは自治協会に依頼を出すことも増えてきているという。
『メソより南の森にて魔獣の動きが活性化している、至急調査されたし』
これが今回寛介の引き受けた依頼である。メソにはあまり近寄りたくない寛介であったが、緊急性が高いということでその依頼を引き受けることにした。
ただし、正体が知られれば大騒ぎになることは必至だ。そこで顔の右半分だけを隠すような覆面を用意し、フードを深くかぶることで顔に大きな傷を負った冒険者として変装した。さらに声を覚えている者もいるかもしれないので、念には念を入れて町人との会話はナルに任せていた。
「南の森の奥で野草を採ってたんだが、この辺で見たこともねぇような蛇がいたんだよ。途轍もねぇ大きさの蛇だった」
『どれくらいの大きさか聞いてくれ』
「一体それはどれくらいの大きさだったの?」
ナルと会話をしていた町人が思い出すのも恐ろしいのか震えながら、寛介を指さし答える。
「そっちの冒険者さんを優に超えた大きさだったのは確かだけど、恐ろしくて逃げたもんで詳しくは覚えてねぇんだ」
情報の礼を伝え、寛介たちは南の森へ入った。
メソの南には広大な森林が広がり、南に抜けると川がある。流れが急な川に遮られ、向こう岸から魔獣が渡ってくることは不可能に近い。命からがらたどり着き、森に住み着いた魔獣もいる。それらは森へ溶け込み、生態系の一部となっていた。この森の生態系に大蛇がいるという報告は今までに挙がっていない。
「何があるかわからない、気を引き締めていくぞ」
「はい、カンスケ様」
「はいはーい」
三人は森の奥へ歩いていく。しばらく歩いても、特に魔獣の気配はない。
森には吹き抜ける風の音や、虫の声、寛介たちが進む音だけがこだましている。
「何もいませんね?」
ノノは周囲の気配や匂いに集中しながらも、あまりの変化の無さにそう呟く。ナルに至っては「歩くの疲れたー」などと言った挙げ句、今は寛介に背負われている(もちろん剣の状態だ)。
『結局何かの見間違えだったとか?』
「結論を出すにはまだ調査不足だ」
「もう少し奥まで行ってみますか?」
「そうだな」
その日、日が暮れるまで寛介達は森の中を歩いたが、大蛇の魔獣を発見することができなかった。
翌日、寝過ごしてしまった寛介は、ノノが部屋に飛び込んでくる音で目を覚ました。
「カンスケ様! 大変です、魔獣が出たそうです!」
「何っ!?」
飛び起きた寛介は変装も忘れて宿から出てしまう。
外ではナルが既に情報を得るべく少女から話を聞いていたが、その少女を見て寛介は驚いた。
(ホリーさん……!?)
「あ、ご主人様。やっと起きたの?」
ナルが寛介に声をかけると、自然とホリーも視線を寛介に向ける。
寛介の顔を見たホリーが、驚愕と戸惑いがいっぱいに宿った表情を見せる。
「あ、あんた……!?」
その反応でようやく寛介は変装を解いてしまっていることに気が付いた。
「っ!!」
幸い、周囲に寛介の顔を知っているものは居ないようで騒ぎにならなかったが、寛介は宿の中でホリーから話を聞くことにした。