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6 覚悟

「カンスケ、腹減ってねぇか?」

 寛介は呆れながら言った。

「セガールさん、それさっきも聞いた。あんまり気を使わないでって言ったよね?」

「だけどよぉ、恩人の腹減らしたまま何かでいたらホリーに怒られちまうよ」

「あぁ……」

 ホリーはセガールの娘で年は寛介と同じ十五歳の少女だ。あのあと、一旦セガールの家に寄って仕事に出ることを伝えるときに借金取りのくだりが伝わるやいなや、セガールの頬を張り、

「父ちゃん! 知らない人に迷惑かけて、何考えてんの! 今すぐカンダさんのとこに行くよ、父ちゃんの腎臓と私の処女売れば借金も返せるでしょ!」

 などと、セガールを引きずって本当にカンダのところへ行こうとするような少女である。寛介は思い出すだけでも空恐ろしくなった。必死の思いでホリーを説得しきった二人は、準備を済ませてから、メソを出発したのである。


 メソを出発して数時間が経過し、日が落ちきった頃。夜の街道を進んでいると、馬車が急停車した。魔獣が現れたのだろう。寛介が飛び降りると予想外の情況だった。

「へへへ、こんな時間にどちらへ?」

「身につけてるものも命も全部おいていってくれや」

「ゲヘゲヘゲヘ!」

 三人組の盗賊だった。盗賊たちは寛介に気づくと、

「可愛らしい用心棒だなぁ!」

「出てこなきゃ命は助かったかもしれないのになぁ!」

「ゲヘゲヘ!」

 寛介はダガーを抜くと、盗賊たちに言った。

「人は殺したくない、退いてくれ」

 それは寛介の本心だった、手も足も震えている。十五歳の少年としては当たり前である。だがそのような純粋な気持ちをこの世界は許さない。

「ブルってんじゃねぇか! 殺されるのはお前なんだよぉ!」

「ふざけた事言うんじゃねぇ! 死ねクソガキ!」

「ゲヘ!」

 先頭の男がナイフを徐に寛介に突き出してくる。余裕を持ってそれを躱し、男の手首と二の腕をつかんだ。

「お、おい、何を……」

 あまりに素早い動きに驚きを隠せない男は怯えを見せる。寛介は迷わず男の肘へ膝蹴りを行う。鈍い音とともに男の利き腕はへし折れた。

「ぐがぁっ!」

 痛みに耐えかねて膝をついた男の頭をまるでボールのように蹴り飛ばす。後頭部を強く打ち付けた男はピクリとも動かない。間違いなく致命傷だった。

「ゲへッ!?」

「ヒィ!! た、助けてくれっ!」

 仲間の無残な姿を見て怯えた残りの男たちは情けない声を上げて逃げていった。

「待て!」

 追おうとする寛介の背後からセガールの声がかかる。

「おい、おいカンスケ!無理に追う必要はねぇ、出発するぞ」

 その声に我に返った寛介は馬車に乗り込んだ。息をついた寛介は、自分の手で命を奪ったことを改めて理解する。思いつめたその様子を気遣ってセガールが声をかけてくる。

「ああするしかなかった、やらなければやられていたのは俺たちだ。カンスケ、本当にありがとうな」

「……うん」

 心を落ち着かせるように、寛介は少し目を瞑ることにした。


 その後は運良く魔獣や盗賊と遭遇することもなく、寛介とセガールは目的地にたどり着いた。セガールが寛介に声をかける。

「着いたぞカンスケ、ここがリアンだ」

 すると門番が馬車へ近づいてきた。

「大量の魔獣がいる街道を抜けてきたのか、よく無事だったな」

「腕の立つ用心棒がいるんでね」

 セガールが自慢げに言った。

「ともかく疲れただろう、入ってくれ。ところで今日の要件は?」

 セガールが手紙を差し出した。

「研究者の先生に納品だ」

 手紙に書かれた名前を見た門番の態度が一変する。

「なんだと? あの魔女に? 魔女はこの町にはいねぇよ、帰った帰った」

 セガールがいきり立つ。

「たしかにこの町って書いてあるだろ!?」

 門番が吐き捨てる。

「確かに書いてあるな? けど町の中にはいねぇんだよ、その森のなかに住処があるからな、会いたければ行けばどうだ? 魔女の魔獣に殺されないように注意しろよ」

 門番はそれ以降、口を開くどころか目も合わせようとしなかった。


 街道から逸れたところに鬱蒼とした森が広がっている。ギリギリ馬車が通れる獣道を見つけた二人はおそるおそるその道を進むことにした。

「どこから魔獣が出てきてもおかしくないな」

「なんだって錬金術師の先生はこんな森の奥に住んでるんだ?」

 ブツブツ言いながら馬車を勧めていると目の前に二つの頭を持った犬型の魔獣が現れた。

「ひっ!化物!」

「何か……違う?」

 禍々しさ、悪意がなく、この魔獣に敵意がないことを何故か理解できた。

 寛介と魔獣の目が合う。魔獣はついてこいと言わんばかりに歩いていった。

「案内してくれるみたいだ」

「ほ、本気か……?」

 魔獣に着いていくと、森を抜けたところに城が建っていた。

「で、でけー」

 あっけにとられ、開いた口が塞がらない二人であった。


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