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50 転生①

(ここはどこだろう……)

 目を覚ますと、青い髪の女性と目があった。どうやら自分はその女性に抱きかかえられているらしい。青い髪の女性は整った顔をしている。こちらをじっと見つめていた。

(綺麗な女性……誰だろう)

 口がうまく動かせず、問いかけることができない。もどかしくて気持ちが高ぶる、赤子は声を上げて泣き出してしまった。

「ああ、愛しいミリアム泣かないで」

泣き続ける赤子を青い髪の女性があやす。心地よい揺れに、赤子は眠りに落ちていった。


 バルスタ王国には有力な貴族家が五つある。アントナ、バーティン、カーン、マティス、プランケットの五家は五大貴族とも呼ばれ、年に一度開かれる五大会議での決定事項は王家をも動かす力を持っている。

 ミリアムはプランケット家当主ジュストとその正妻コレットとの間にようやく生まれた子であった。

「ミリアム、九歳の誕生日おめでとう」

「おめでとう、ミリアム」

「ありがとうございます、お父様、お母様」

 九歳になったミリアムは、母親譲りの綺麗な青髪を肩まで伸ばしていた。父親に似てしまい鋭い目をしているが、それも魅力の一つになってしまう程の端正な顔立ちの子どもに成長していた。

 机に並んだご馳走は、今日が普通の誕生日ではないことを表していた。

 食事を終えると、ジュストはミリアムの頭を撫でながら優しく声をかけた。

「明日は加護鑑定だ、ゆっくり休むんだよ」

「わかっております、お父様」


 原初の賢者キェルケが大昔に冥界軍に対抗するため編み出した加護の儀式により、生き残っていたほとんど者には戦うべく加護が与えられた。

 冥界軍との戦が終わって世代交代が進んでいくと、大きな力を持って生まれてくる者が現れ始めた。

 研究者達により出された結論は、「加護は遺伝する」というものだった。先祖に加護を受けた者がいれば、加護が発現する可能性がある。

 生き残っていたほとんどの者に加護が与えられたということは、言い換えればほとんどの人間が加護を受けた祖先を持つということである。誤解を恐れずにいれば、誰でも加護を持って生まれてくる可能性があるということだ。

 調査の過程で鑑定系スキルを参考に、鑑定用の魔具“鑑定珠”が作り出された、それにより集まった情報から加護の名前や種類が判明していった。


 加護は[一般加護(レギュラー)]と[特殊加護(ユニーク)]に分けられる。

 [一般加護]は傾向と種別が組み合わされている。例えば[力の戦士]という加護であれば、“力”が傾向で、“戦士”が種別となる。種別でその者の成長補正が決まり、傾向で一部の補正が強化(劣化)される。先の例で言えば、“戦士”の成長補正は“体力B 筋力B 敏捷C 精神力C- 運C”となるが、”力”という傾向により“体力B 筋力B+ 敏捷C- 精神力C- 運C”に変化する。

 特殊加護は突然変異的に生まれる加護で、特殊な能力を持っていることが多い。

 成長補正により、成長の幅が大きくなる。確認できた最高ランクは”A+”であるが、過去の勇者などはそのランクには収まらないだろうと言われている。

 そうして調査が進んだ結果、加護三原則がまとめられた。


 ――第一原則:加護は遺伝する

 ――第二原則:加護の傾向と種別は遺伝しない

 ――第三原則:遺伝した加護が必ず発現するとは限らない


 加護を持って生まれてくる可能性が誰にでもあるとはいえ、誰もが自分の加護を知ることができるわけではない。価格の高さもあり、「家が建つ」とも言われる価格で取引されているからだ。

 だから、一般的な市民達は自分の加護について知らないことのほうが多い。そもそも知っているか知らないかに関わらず、加護による補正は有効であるため普通に生きていくためには知る必要がないのである。

 それでも鑑定珠に未だに需要が途切れないのは、貴族達を中心に加護が婚姻の際の一つのアピールポイントになっているからだ。昔、商人がどうにかして貴族に取り入るために自分の娘を使って行ったことがこの風潮の始まりであった。

 優れた加護を持った娘は、貴族の愛人となり同じように優秀な加護を持った子どもを産んだ。その子どもは成長し、貴族の家は更に発展することとなった。

 加護三原則により否定されてはいるが、噂は瞬く間に広がり、婚姻の条件に家の格だけでなく持っている加護も重要視されるようになったのだ。

 とはいえ、それも昔の話で今や本気で加護を重要視して婚姻する家は少ない。プランケット家も慣習で行っているだけであった。


 ゆっくり休みなさいと父親に言われたので、いつもより早く入ったベッドで横になりながら、少女は眠れずにいた。

「ミリアム……ね……」

 自分の名前をひとりごちながら、ため息をつく。可笑しくなって笑ってしまう。

 言葉を覚え、喋られるようになった頃、何も考えずに乳母に訪ねてしまったことがある。

「ここはどこ? フランス? スペイン?」

 当然、乳母から答えは返ってこない。代わりに返されたのは奇異な目線であった。当然、両親たちから質問攻めにあったが、夢で見たということにしてなんとか誤魔化すことができた。

 そうして少女はようやく理解した、「ここは自分が知っている世界ではない」と。

 理解したところで違和感が消えることはない、自分がミリアムと呼ばれることや、“フランス人形”のような整った顔、何かの“漫画”で見たような青い髪に未だに慣れることができていなかった。


 ミリアムには、楽しかった記憶も、あの“悪夢”も含めて、叶だった記憶がたしかに残っている。自分が何故死んでしまったのかという記憶だけはどうしても思い出せなかった。

「考えても仕方がないか。お父様も言っていたし、そろそろ寝ないと」

 切り替えるように口にして、ミリアムは眠りにつくのだった。


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