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39 奮起

諸事情で半年以上間が空いてしまいましたが

必ず完結させたいと思っていますので、読んでいただけると幸いです。

「つまり、その女の子が可愛かったから一緒に連れて行くことにしたってことですよね?」

 ノノの目からは光が失われている、今にもナルに襲いかかりそうだ。寛介はため息をつきながら説得を続ける。

「だから違うって、いったい何度説明すればいいんだ」

「えー、ノノちゃんも十分可愛いよ?」

 ナルが火に油を注ぐように口を開く。ノノからブチッと何かが切れたような音がする。

「ノノ? ちょっと待て、やめろ!」

 双剣を構えたノノがナルに斬りかかる。不意をつかれたナルに避ける間はない。

「!?」

 驚きの色を見せたのは不意をついたはずのノノであった。双剣の刃はナルを切り裂くことはなかった。避けたわけはない、まるで鋼鉄の塊に斬りかかったかのように弾かれたのだ。ノノの手には痺れが残っている。

「何ですか、その体……」

「さっきからご主人様が説明してたでしょ? 私は魔剣ナル、これからよろしくねノノちゃん先輩」


 落ち着いたノノに仔細を説明し、事情を把握したノノはシュバッと土下座の体制を取る。

「ごめんなさい、カンスケ様」

 ノノはシュンと小さくなっている。寛介はノノの頭を撫でながら、口を開く。

「ともかく、元気そうでよかった」

 突然、寛介はノノを力強く抱きしめる。

「カンスケ様?!」

「頼むから二度とあんな無茶をしないでくれ」

 ノノは寛介を抱きしめ返した。

「えへへ、多分無理です」

「なっ」

「カンスケ様の盾になるのはうちの本望ですから」

 寛介の胸に顔を擦り付けながらノノはそう言ってのける。

「あー、やだやだ。ラブラブするのは二人きりのときにしてくださーい」

 ナルが横槍を入れ、笑いながら、更に続ける。

「まぁノノちゃん先輩に無茶させたくないなら、ご主人様が頑張らないといけないってことだね」

 ラブラブという単語に反応し、なかなかわかってるじゃないですか、というノノの小声でのつぶやきを聞かなかったことにした寛介が口を開く。

「そうだな。ナル、遠慮なく力を借りるぞ。俺は二度と負けたくない」

「ま、期待しててよ。ご主人様に世界を統べる力をやろう、なんてね」


 妄想の世界から戻ったノノは、コホンと咳払いをして、小首をかしげながら可愛らしく口を開いた。

「ところでカンスケ様、あの魔族は?」

 寛介も同じことを考えていたのか、即答する。

「全く持ってわからない、何の目的で……いや、待てよ? あのコボルドたちが斥候だとしたら……」

 寛介たちは狩人たちが使う獣道から森へ入った。その正面から斥候のコボルドと遭遇したということはボーマンが率いる部隊の進行先は自ずと絞られる。寛介は来た道を振り返り叫ぶ。

「狙いは帝国……? 気を失ってからどのくらいの時間が経ってるんだ?」

 寛介が疑問を口に出すと、ナルが答える。

「あの黒いのにやられてご主人様が気を失ってから? ちょうど三時間ぐらいだね」

「急いで帝国へ戻るぞ」

「え? は、はい!」

 寛介がそういうと、三人は帝国へ向かって走り始めた。


 森を走り抜けると、ノノの鼻が異変を捉える。

「何かが燃えた匂いがします!」

「うーん、どうやら黒いの以外にもヤバイのがいるみたい」

 次いで、ナルが帝国に渦巻く強大な魔力を感じ取った。その強大な魔力の波は、ナルに言われるまでもなく寛介も感じていた。ところが、寛介はその恐ろしいほど大きな魔力に、どこか懐かしさを感じて立ち尽くしていた。

「ご主人様! 聞いてる!?」

「え? あ、ああ、聞こえてるよ。とにかく急ごう」

 南門へたどり着いた三人は驚愕した。そこには、およそ門と呼べるものはなく、門番だったであろう残骸が転がっているだけだった。

「ひどい……」

 敵わぬであろう大群に勇敢に立ち向かったのは、そばにあった折れた剣から明らかだった。ノノは涙目になりながら、残骸に手を合わせる。寛介も同様に手を合わせ、名も知らない勇敢な門番を弔った。


 しばらく進んでいくと、魔獣の群れとそれに対峙する兵士たちが目に入った。

「恐れるな! 我ら帝国軍の意地を見せろ!」

 先頭に立っていたのはフリードである。フリードは意気軒昂に魔獣の群れに向かって走り出す、その手に武器はない。

「うおお! らぁ!」

 威勢のいい声とともに繰り出された拳が、コボルドを貫く。返す刀で背後から襲いかかるコボルドに回し蹴りを叩き込んで吹き飛ばした、勢いよく飛んだそれは、仲間を巻き込み、動かなくなる。

「す、すごい! 素手で、あの数に!」

「おお! 俺たちもやるぞ!」

 兵士たちの士気も上昇し、我先にと魔獣の群れに立ち向かっていく。

 その様子を見たフリードは、対象を本命に変える。

「お前がリーダーだな?」

 フリードが、浅黒い肌に鎧を着込んだ魔族、ボーマンに尋ねる。

「そうだ」

「……そうか」

 それ以上は、必要がないとばかりに、フリードは戦闘態勢を取る。ボーマンの方も大剣を構える。まさに一触即発の様相である。

 向かい合ったのはごく短い時間であったが、その間で無限大にも及ぶ攻防が繰り広げられていた。

「ヒトの中にも、骨のある者もいるようだ」

「さすがは魔族、今までにないプレッシャーを感じる」

「だがもう終わりだ、主では我には勝てない」

 そういうと、瞬く間に距離を詰めたボーマンが斬りかかる。

「甘い!」

 フリードは剣筋を見切り、最小限の動きで回避を行う。ボーマンの口元がフッと緩む。

「甘いのはそちらだ、人間」

 大剣を纏う瘴気が膨れ上がり襲いかかる。刃となったそれがフリードの体を斬り裂いたとボーマンはそう確信した。

 しかしその確信は、予想外の乱入者により崩れ去ることとなる。

「あと半歩下がるんだ、フリードさん!」

 意識外からの声に、フリードは見事に反応してみせた。瘴気の刃は彼の首元をわずかに捉えることができず通り過ぎていった。流れるように反撃が行われる、繰り出されたのは左拳で顔面を、右拳でみぞおちを狙った双手突き。

「なっ!?」

 避けられるはずがないと確信していた隠し玉を防がれた男は、急所の顎を守ることを選択する。右拳は防具である程度軽減できるであろうとの判断だった。しかし、その判断が誤りであったことをすぐに理解することとなる。

「破っ!」

 繰り出された右拳が敵のみぞおちを捉えた瞬間、ボーマンの鎧が弾ける。ただし、弾けたのは拳が当たった腹部でなく、背面であった。

「ぐぁっ」

 嗚咽とともに血を吐き出したボーマンは追撃を避けるために距離を取る。何が起こったのか理解できたのは技を繰り出した本人と――

「[鎧通]……」

 同じ技が使える寛介だけであった。

「やぁ、カンスケくん。助かった、ありがとう」

「一体何が起こってるんですか?」

 敵は膝を付き、追撃する好機のように見える。しかし、先程のような隠し玉を持っている可能性から攻めあぐねていたフリードは敵から目をそらさずに、寛介の問の答えを返す。

「ああ、実は――」


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